三城×幸田・クリスマスの朝
【番外編】


夜中に目覚めて指輪を見つけた後、幸田は再び三城に攻め立てられていた。

二度目に眠ったのはいつだったか。

泥のように眠っていた幸田が次に目を覚ました時には正午を越えており、隣に三城はいなかった。

別に珍しい事ではないが、なんとなく居るとばかり思っていたため拍子抜けする。

のそりとベッドから抜け出し、腰紐で引っかかっているだけのバスローブを着直した。

指で輝く物が視界に入ると、顔がニヤけずにはいられない。

そんな顔を小さく叩き引き締め、落ち着いて室内を見渡すと、この部屋は最初に入ったベッドルームではないようだ。

一度目の行為の後、汚れたベッドを避けるため三城がここへと幸田を運んできたのだが、結局このベッドも多種の体液で汚れる事となった。

「さすがスイート」感心しながらそのベッドルームから出ると、ソファーやローテーブルが置いてあるメインルームに出た。

果たして三城はそこに居た。

愛用のミニノートを広げ、真剣な面持ちでモニターを覗いていたが幸田に気がつくと顔を上げ、ニコリと微笑む。

「おはよう。」

「おはようございます」

ポケットから煙草を取り出した三城の仕草一つ一つにドキリとしてしまう。

ありふれた会話にも昨夜のテレを感じ、幸田は顔を反らした。

「風呂、入ってこいよ」

「あ、、、そうですね。解りました」

すっかりスーツを着込んだ三城がバスルームを指差す。

促されるままに幸田はそこへ向かい、シャワーを浴びる事にした。

今まで見たどのバスルームよりも絢爛豪華で、一人で入るのはもったいないほどの広さだ。

だが、すでに着替えを済ませている三城を思うと「一緒に」とは言えなかったし、今まで「一緒に」入った事など一度もない。

意外と幸田は明るい場所で身体を見られる事を厭わず、顔を反らすのはいつも三城の方だった。

頭から湯を被り、全身を洗っていく。

ふと、「自分は何を着て帰るのだろう」という事に思い当たった。

着てきたのはあのワンピースだ。

だから当然それを着て帰らなければならないのだろうが、今はメイクもしていなければ髪も短い。

とうてい素面で着れる物ではなかった。

どうする、という言葉だけが脳裏を駆け巡る。

どうも出来ない。

諦めるしかない。

それとも、三城に頼んで何か着るものでも買ってきてもらうか。

だが三城が買ってきたワンピースを(いくら女性ものだとは言え)「着れない」とはなかなか言える物ではない。

幸田は「どう」と答えが出ないまま、バスルームから出た。

ため息と共にふと室内を見ると、そこには先ほど着ていたバスローブが消え、ブランドロゴ入りのカバーにかかった見慣れぬ服が吊るされている。

その外見からも想像は出来たが、中を開けてみるとそこにはスーツ一式が入っていた。

品のいいチャコールグレーのそのスーツは三城の愛用のブランドの物だとすぐに知れる。

驚きに目をむいた幸田はそれを眺めて固まっていた。

まさか自分に、だろうか。

三城はすでに着替えを済ませていた事を思えば自分の物なのだろう。

だが、明らかに高価な物だ。

「はい、そうですか」という訳にはいかない。

何せ三城には昨日から色々と貰っているのだ。

女装用の服装も上から下まで高級ブランド物だったし、指輪も然り。

着るか着ないか。

決めかねているとパウダールームの扉が開いた。

「なんだ、まだ着ていないのか。」

「三城さん、、、」

いくら見られても平気だとはいえ、全裸にタオルも纏っていなかった幸田は狼狽する。

手に届く場所にタオルを置いていなかった事もある。

「また襲われたいのか?」

クスリと笑った三城は幸田へと近づき、隠す事の出来ずにいる胸の突起に触れた。

「ん、、、やっ止めてください。」

キュッと抓り上げられると、甘い声が漏れてしまう。

「だったら早く服を着ろ。」

三城は意外なほどにあっさりと手を引き、幸田から離れ背を向ける。

「でも、、、これ、僕のですか?」

「他に誰が居る」

「えっと、三城さん。」

「俺は着ているだろう。」

「でも、、、」

「さっさとしろ。本当に襲うぞ!?」

三城は怒鳴るようにそう言うと、パウダールームを出、バタンと大きな音を立てながら扉を閉めた。

幸田は呆然とその扉を眺めていたが、再び開かれる事はなかった。

「、、、クシュ」

さすがに湯上りのまま立ち続けていると寒さを感じ、籠から取り出したタオルで身体を包む。

三城が「お前の物だ」と言うのだから、これは幸田の物なのだろう。

そうと言われても普段ならば「いらない」と突っぱねる事も出来るが、今は着て帰る物がない。

「洗って返そう。」

そう決めると少し気が楽になり、身体を拭くと下着から全て揃えられている物を身に纏った。

ファッションに興味の無い幸田だが、着てみればその違いははっきりと解る。

身体にぴったりとフィットするそれは、いつも着ているものとは同じ種類でも全くの別物のようで、何処か気恥ずかしさすら感じた。

着終わりメインルームへと戻る。

「三城さん、、、どうですか?」

「良く似合ってるよ。」

ソファーから立ち上がった三城が嬉しそうに幸田の元へと歩み寄って来た。

その顔を見ると、自分の逡巡などとても無駄なものだと思える。

「ありがとうございます。こんな、、、」

「それは俺からじゃない」

「えっ!?」

思いもよらない三城の言葉に、幸田は驚きに目を剥いて声を上げた。

「サンタさんから」

冗談交じりにそう嘯く三城は、クスクスと楽しげに笑った。

幸田の驚きっぷりが可笑しかったのだろう。

バツの悪くなった幸田は顔をしかめて横を向いた。

「何ですか、それ」

「知らないのか?サンタ。」

「そういう事じゃなくて」

まんまと騙された事に対する羞恥から、珍しく声を荒げる幸田に三城はどこまでも楽しそうだ。

「それから、サンタからの伝言。」

「伝言?」

「サイズが違うから、返品不可。」

幸田の考えを見透かしているとしか思えないその「伝言」に、幸田は口閉するしかない。

「益々プレゼントを渡せなくなるじゃないか」と言う幸田の内心を知ってか知らずか、至極満足げな三城は幸田の腰を抱き寄せて唇を重ね合わせた。

何か言ってやりたいとも思うが、跳ね除ける事など到底出来ない幸田は瞼を閉じ、甘んじてその甘美なる感覚を受け入れる。

三城の手はあっと言う間に幸田のジャケットにかかり、着たばかりのスーツを脱がされながら、「服を贈るのは脱がしたいからだ」と耳元で囁かれたのだった。



*あとがき*


*目次*