三城×幸田・過ぎた愛
【番外編・もしも】



明かりが灯されていない三城の寝室で、ガチャリと金属が触れ合う音が重く響く。

「三城さん、止めてください。」

幸田は首に巻かれた革製の首輪に触れながら、悲壮な声をあげた。

着衣は無く、全裸に首輪だけの姿だ。

人並みの羞恥心はすでに薄らいでいた。

そんな事よりも現状は深刻だと本能が知らせたのだろう。

首輪には太く重く長い鎖が付けられ、先端はクロゼットのハンガーパイプに繋がっており、首輪にも鎖の先端にも大きな南京錠が付けられている為、鍵が無くては外す事も出来なかった。

決められた範囲しか動けず、もちろん家から出る事など叶わない。

「こんな事をしなくても、僕は三城さんの前から逃げない。」

幸田が涙を流し力の限り叫んでみても、その声は三城には届いていないようだ。

開け放れた扉から差し込む隣室の明かりをバックに、三城は愛用の煙草を吹かしながらニヤリと笑った。

だが微笑みを作ったのは口角のみで、瞳は1mmも笑っていない。

逆光の中、鋭い瞳だけが幸田に印象深く写る。

射抜かれるような視線だったが、幸田には怖いとは思えなかった。

むしろ怯えすら感じられる。

「お前が俺の前から逃げないと言っても、仕事に行くだろ?」

「それは・・・」

社会人として当たり前の事だ、と幸田が口を開くよりも早く、興奮から徐々に早口になる三城が言う。

「外に出れば、他のヤツに喋りかけるだろ?微笑むだろ?触れるだろ?俺はそのどれも許せないんだよ。恭一と関わっていいのは俺だけなんだよ。」

見開かれた瞳孔で、三城は狂ったように叫ぶ。

普段の冷静さなど微塵も残っておらず、弱い獣の雰囲気すら漂うほどだ。

幸田は何故自分がこのような目に合わされているのか、記憶を辿っても原因が見つけられないでいた。

食事をして、アルコールも少し飲んで、眠気が襲って来たと思ったら、次に目覚めた時には今の状態だったのだ。

何度懇願しても首輪が外される事は無く、逆にねじ伏せられ、無理矢理行為に持ち込まれた。

嫌だと言っても聞きいれられず、快感を感じられないまま、強姦のようなその行為は、三城が満足するまで永遠とも思えるほどの時間続いた。

身体に傷は付けられなかったが、内側を何度も突き上げ続けられた為、体力と精神力は奪われている。

辛く苦しかった。

身体以上に、心が痛い。

それでも、幸田は三城を嫌いになれないでいる。

それ程までに愛しているのだ。

愛しているが故に、だからこそ自分の意思で側にいたいのに、三城にはその想いが届かないのだろうか。







「───って言う夢を見たんですけど。」

三城の自宅のリビングでソファーに座り(正確に言えば、三城が幸田を後ろから抱き込むように自分の膝の上に座らせ、だが)、幸田は顎を上げるようにして真上にある三城を見上げた。

「どう?」と言いたげな幸田とは裏腹に、話を聞き終えた三城の頬は僅かに痙攣をしている。

「俺がそんな事をするとでも?」

「ちっ違いますよ。ただ、怖い夢だったな、って。・・・でも、しないですよね?」

幸田は乾いた笑い声で言ったのは、あながち「違う」とは思っていないのかも知れない。

「三城に限って」という想いは、「姑息な真似をしない」と「力でねじ伏せれる」という対極な両方に適応出来る気がするのだ。

「するか、バカッ」

微かに怒気を含んだ三城は眉間に皺を寄せて幸田を見返し、胸の辺りにある幸田の後頭部を軽くペシリと叩いた。

大して痛くもなかったのに幸田は反射的に「痛っ」と言ってしまい、ますます三城の眉間の皺を深くさせた。

その表情を見た幸田は、何かフォローしなくてはと必死に思考を巡らせ、三城を見つめ口をパクパクさせていたが、口に吐いたのは自分でも予想外の言葉だった。

「でも、監禁したいほど愛してくれるのも幸せかもしれませんね。」

言ってから、幸田は自分の言葉に驚き、笑が漏れた。

これが自分の、深層心理の本音なのだろうか。

「バカか、お前は。」

心底呆れたとばかりにため息混じりに言う三城の声と、幸田のクスクスと笑う声が重なり合った。



*目次*