大きな宝石・2


長年一人で暮らしてきた、2Kの安アパートでソラとの二人暮らしが始まった。

一日の始まりは朝7時少し前で、目覚ましが鳴り響くとシンホがノソノソと起きる。

別に起きなくてもいいといつも言っているが、同じようにソラも目を覚ます。

シンホが「朝は忙しい」とばかりにバタバタと仕事に行く用意をしている傍らで、ソラがゴロゴロ転がりながら苦労してやっと座る体勢になれた。

トーストにバターを塗っただけの物と、それを一口大に切った物、インスタントのホットコーヒーとグラスに半分入れた牛乳を台所を何往復かしながらローテーブルの上に並べ、時計を見て家を出る時間を確認する。

大抵、20分くらい前から朝食をとれる。

以前ならもっとギリギリまで寝ていて、朝食なんてとらずに出社していたが、ソラが居るとそういう訳にもいかない。

元々栄養不足な身体だから、しっかりと食事を与えてあげたいと思っている。

ソラは小さい。

手足が無い事を差し引いても、ガリガリで骨は浮き出て、肩幅だって狭い。

もし足がちゃんとあったとしても、これじゃぁ身長160cmあるかないかかもしれない。

「ソラ、おいで」

食事のセットをしたローテーブルの前に胡坐を組んで座るとソラを呼び、膝の上に座らせた。

バランスの悪い身体を片手で支えてやりながら、小さく切っておいたトーストを口に運ぶ。

まだ眠そうな顔をしながら口を開け、ぼーっとしながらゆっくりと咀嚼する。

そんなソラを微笑ましく眺めながら、シンホは自分のトーストを食べた。

ソラが食べ終わったようならまた運んでやり、その間で自分の食事をする。

食べ終えるまでそれを繰り返すのは毎食の事だ。

腕の無いソラは自分で食事をする事もままならない。

始めて二人で食事をした時、シンホはうっかりその事を失念していて普通に皿をソラの前に置いてしまった。

するとソラは当然のように、顔を皿につけて食べ始めた。

いわゆる「犬食い」というやつだが、それがあまりに衝撃で見てられなかった。

それからは毎度の食事でシンホはソラに食べさせている。

けれど昼間はシンホが居ないため、昼食やおやつなどはしかたがなく、申し訳ないとは思いながらもソラには一人で食べてもらっている。

ソラ自身はあまり気にしていないのは、生まれ育った環境のせいだろうか。

膝に据わらせていたソラを床に下ろし、食べ終わった皿やコップろ持ちシンホは立ち上がって台所に向かう。

キッチンではなく台所と呼ぶにふさわしい小さく質素なものだ。

本格的な料理をするには不便かもしれないが、男の一人暮らしにはこんなものでいい。

シンク横の作業スペースの上に置かれたビニール袋から菓子パン二つとお菓子の袋を取り出し、それぞれ皿に乗せるとローテーブルに戻る。

これが、ソラの昼食とおやつだ。

万が一残業になった時のために、いつも残るくらいの量を置いていっている。

最初はもっと多かったのだが、ソラの食べる最大量を考え、この程度でおちついた。

「行って来るよ。良い子にしてるんだよ。」

そっとソラの頭を撫でながら言い、ソラはくすぐったそうに笑う。

「はい、良い子にしてます」

シンホの手が離れ、扉が閉まるまで短い腕を振って見送るのが日課。

鍵がかかるガチャガチャという音が無くなると、部屋は静寂に包まれる。

それでもソラは暫くそこにたたずみ、開くことの無い扉をただ見つめた。

それも毎日の事だけれど、シンホは当然のように知らない。



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一人になった部屋で、ソラは一日の大半を窓辺で過ごしていた。

カーテンを開けた窓から外を、空を眺める。

天気の良い日も悪い日も、それぞれの空を楽しんだ。

シンホはそれを知ると、「何が楽しいんだ?」と聞いたが、雲の動きや空の色の変化、鳥が飛ぶ様や、何もかもが面白いとソラは答えた。

一度として同じ姿にある事の空。

TVを見たり、本を読んだりするよりも楽しいのにと、逆にソラが不思議そうな顔をする。

もっとも、ソラは字を読めなかったけれど。