君だけにオール・グリーン・1


別に俺は自分が特別だなんて露ほども思っちゃいない。

夢と希望と恋と未来に悩む、極普通の思春期を迎えた高校二年生男児。

ただ、それだけだ。


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二時間目の途中に登校した俺は、教室に上がる階段の半ばで奴に声をかけられた。

「なぁ、相沢【あいざわ】、お前リストカットしてるっとホント?」

階段の上段から見下ろすような恰好で、まるで天気の話しでもするように気軽に、そしてほぼ初めて話すというのにフレンドリーに話しかけられた。

そんな態度を取られ、気分が良いわけが無い。

俺は憮然とした態度で何も言わず踵を返し、登ったばかりの階段を下り始めた。

「おい、待てよ!」

奴の事は当然知っている。

去年の一年生、そして今年の二年生も同じクラスなのだから。

大久保啓次【おおくぼ・けいじ】。

クラスの中では良くも悪くも目立たない、浮きもしなければ沈みもしない。

全てにおいて上の下。

成績も上位から10番目くらい。

平凡、の中で少しだけ「良」が多い、そんな奴だ・・・と俺は思っている。

それに比べ俺は。

悪目立ちをし、浮いている事を自覚していた。

人と違う事をしてやろう、などど思っている訳ではない。

決してない。

ただ人と馴れ合う事を無意味と思っているだけなのだが、それを他者は「協調性が無い」と呼ぶ。

そんな訳で、俺と大久保は仲が良いわけも無く、1年以上クラスメイトをしていながらほとんど始めて言葉を交わしたのだ。

だというのに、その開口一番がなんとも失礼極まりない。

「おい、待てって!」

待てと言われて待ってやる義理は生憎なかった。

なにせ俺には協調性がないのだから。

「待てって・・・」

階段を下りきる俺に、走ってきた大久保は追いついてくる。

そして俺の左腕を掴んだのだ。

「おい・・・」

「触るな!」

俺は此処が何処なのかも忘れて、反射的に大声で叫んだ。

窓から差し込む真夏の光に照らされて熱を帯びた廊下に、俺の汗がポタリと落ちた。

きっと冷や汗なのだと思う。

「ご、ごめん」

きっと今の俺は、怯えや恐怖がありありと出た物凄い顔をしているのだろう。

俺の剣幕に押されてか、大久保は勢いを削がれたように俯いた。

それを見ていると、妙に落ち着きが戻って来る。

これでは俺が悪者みたいじゃないか、気分が悪い。

ため息を吐き何かを誤魔化すと、俺は無意識のうちに右手で左手首を庇いながら静かに呟いた。

「いや、俺こそ悪かった。」

怒鳴った事に対する謝罪だ。

「なぁ、帰るのか?」

「あぁ」

今はもう、学校に居たくなかった。

元々勉強がしたい訳でも、ましてや友達に会う為に来ている訳でもない。

気分の反れた今、ここに居る理由はないのだ。

「だったらさ、少しだけでいいんだ。どっか行かないか?」

再び歩き出そうとした俺を止めるかのように放たれた、予想だにしなかった大久保の言葉に俺は内心とても驚いた。

驚いたなんてものじゃない。

呆れと、軽いパニックだ。

今の俺達の会話で、更に俺と居たいなど奇特な奴だと思う。

いや、バカな奴と言った方がいいのだろうか。

いつもの俺ならば「行かない」と即答していただろう。

だが、その時は何故か・・・・何かが違ったのだ。

「少しだけ、ならな。」

そういうと俺は前を向き歩き出した。

心臓がドクンと鳴ったのは、秘密だ。

「あぁ!ありがとう!」

大久保は、「何がそんなに嬉しいのだ」と問いたいほど弾んだ声で言うと、俺の横に並んで歩き出したのだった。



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