君だけにオール・グリーン・2


指摘通り、俺はリストカットをしている。

常習的に。

けれど今まで周囲にばれないようにしていたし、まして人に教えた事も見せた事も一度も無い。

親にも教師にも言える訳が無い。

友達なんて存在は、俺には居もしなかった。

それなのに、なぜ大久保はそれを知っていたのだろう。

それが知りたくて、大久保の誘いに乗ったのだ。

ただそれだけなんだ、と自分に言聞かせながら、潜ったばかりの校門を通り抜けて行った。

アスファルトの照り返しが、熱い。

あれから大久保は一言も話さず、ただ俺の後に着いて来ていた。

誘ったのはあいつだ。

俺に行く宛てなんてない。

学校の敷地を隔てる塀にそって歩き、角を一つ曲がったところで俺は足を止め、大久保を振り返った。

「何処に行くんだよ。」

俺は数センチ上にある大久保の顔を睨み付ける。

大久保は俺よりも身長が高く、体格も良かった。

野球でもサッカーでもバスケでも、何でもスポーツが似合いそうなのに、何もしていないらしい。

女子にももてそうなのに彼女はいないらしい。

この高校に入学したのは徒歩で通学出来るから、らしい。

大久保が友達と話しているのを聞いて知っていた、俺の「大久保啓次」の知識だ。

「えっと、えっと、そうだな、公園とマック、どっちがいい?」

「・・・公園」

人が居る所は嫌だった。

「わかった!じゃぁ、向こうにあるキリン公園行こう。」

大久保はそう言うと、俺の手を掴みそうになったが、指先が俺に触れる寸前に思いとどまり、ただ俺を追い越して前を歩いて行った。


++++++++++

キリン公園は学校のすぐ近く、徒歩二分ほどの場所にある小さな公園だ。

ギーッギーッ

ブランコが軋む音が、午前中の太陽の下で妙に響く。

いつもなら子供連れの主婦や散歩の老人などが居るのだが、こう熱くては無人だった。

都会の喧騒から切り離されたような空間に、俺と大久保は二人きりになる。

咎める者が居ないのを良い事に、子供向けのブランコに俺と大久保はそれぞれ跨り漕いでいた。

ブランコを漕いだのなんて何年ぶりくらいだろう。

人と公園に来たのも、何年ぶりくらいだろう。

ギーッガッ・・・

俺は踵を地面に下ろし、ブランコを止めた。

「何か用事でもあるのか?」

あるわけが無いと思いながらも俺は聞いた。

あるも無いも、無い。

さっき初めて言葉を交わしたのだから。

続くように大久保もブランコを止め、俺を見やる。

「え?あぁ、、、いや、用事って程じゃないんだ。」

「・・・だったら帰る。」

「待てよ。まだ来たばかりだろ?」

大久保はブランコから降りると慌てた様子で俺の前に立ちはだかった。

俺はコイツの意図が全く読めない。

なぜ俺に纏わりつくのだ。

「用事、無いんだろ?」

「無いけどさ。」

だったら何なんだ。

「帰る」

「待てって。さっきの質問の返事もまだだろ?」

焦った様子の大久保は、俺の肩を掴んだ。

さっきの質問とはアレだろうか。

俺は猛スピードで苛立ってくるのを感じていた。

誰しも触れられたくない物事があるはずだ。

俺の「ソレ」は「コレ」なのだ。

「答える義務はない。」

「って事はさ、肯定してるようなもんじゃね?」

そうかもしれない。

でも、それすら答える義務はないだろう。

煩い。

何故俺に構うのだ。

「関係、ないだろ。」

「そうだけど、でも知りたいんだ!」

大久保のストレートな想いが、言葉が、俺の動きを止めた。

怒りだ。

いや、正確には憤りなのかもしれない。

俺にはその微妙な意味の違いがよくわからないけど、響き的に「憤り」だと思う。

「知ってなんになるんだよ!笑いたいのか?バカにしたいのか?学校中に言い振り回すのか?あぁ、そうだよ、俺はリストカットしてるよ!だから何なんだよ!」

俺は声の限りで叫んだ。

涙がこみ上げてくるのは何故だろう。

「ばれた」という焦りからではない。

頬を濡らしたのが汗か涙か、俺には解らなかった。


  
*君だけにオール・グリーン*TOP