君だけにオール・グリーン・4


大久保の家は本当にすぐ近くで、歩いて5分ほどの所にあった。

一般的な二階建ての一戸建。

誰も居ないと聞いていた通り、鍵を開けて入ると無人だった。

電気を点けながら歩み、階段を登って一つの部屋に通される。

「ちょっと待ってて。」

そこは大久保の部屋らしく、俺はその場で待たされた。

6畳ほどの一室に、勉強机とパイプベッド。

ある程度片付いた部屋で、俺達くらいの年齢なら満点合格の部屋だろう。

一人になると急に不安になる。

ノコノコとついてきたが、大久保はどんなつもりなのだろうか。

騙されているとか、笑われているとか、ネガティブな妄想が次々に浮んでは消えた。

「お待たせ。」

すぐに戻って来た大久保の手には盆が握られており、その上にコーヒーとお菓子が乗っていた。

「母さんの見よう見まね。」

大久保は照れた笑みを浮かべると床にその盆を置き、俺の前に座った。

「どうぞ」

「どうも」

俺は差し出されるがままにコーヒーの入ったマグカップを受け取る。

ミルクと砂糖は既に入っていた。

一口飲んでみると、少し苦かったけど美味しかった。

「あのさ」

「何」

「何で、って聞いてもいい?」

「何が?」

「リストカットする理由」

「・・・」

俺は、リストカットをしている事を誰にも話した事はない。

だから、こんな事を聞かれるのも初めてだった。

思った以上に不愉快にならなかったのは、相手が大久保だからだろうか。

それとも、安心感を与える笑みを浮かべているからだろうか。

いや、大久保が優しく笑んでいるからだろう。

「別に、何でとかってない。なんか、切りたくなるから、自分を。」

「・・・そっか」

「頭おかしいとか、気持ち悪いとか思ってるんだろ。」

「思わねーよ。痛そうだな、とは思うけど。」

「ふーん」

「悩みとか、あんの?」

「悩みぐらい誰でもあるだろ。」

「そりゃそうだけどさ。」

「さぁな。強いて言うなら無虚感?」

「あぁ・・・」

なるほどね、と言わんばかりに大久保は頷いた。

本当に同意してくれているのかは謎だ。

未来への不安とか、親への不満とか、そんな物を苛立ちに思う前に、くだらなく思うのだ。

人間関係や社会。

そんなものに興味を抱けず、何をしたいわけでもない。

社会不適合者とは俺みたいなやつをいうのだろう、と思う。

初めて切った理由はたぶんそんなので、それいらい負の感情を抱くと自分を切りつけていた。

癖になっていたのだ。

自分から何も求めないのだから、誰も俺を求めないだろうと思っていた。

思っていたのに。

「だったらさ、俺と楽しい事しよう?」

陳腐な言葉だ。

だが、それを言った大久保の顔が照れたように笑っていたので、俺は怖いと思いながらも頷いた。

  
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