**爛漫**


「ユウ、ねぇ、ユウってば、、、指、切れた」

俺は、ベッドで眠るユウを片手で揺さぶりながら、傷ついたもう片方の手を突きつけた。

左の人差し指の、第一関節の甲から第二関節の平まで、斜めにざっくりと切れている。

鮮血は滴り、傷口を隠し、それどころか手の平や手首なども真っ赤に染め上げていた。

痛みは、ない。

無い、と言うよりも、ソレを頭の片隅で感じながらも苦痛には思えなかった。

ユウは薄っすらと眼を開け、俺の指を見た。

徐々に瞳を大きく開き、その視線を俺へと向ける。

「おい、どうしたんだ!?」

「料理、、、してたら、包丁で切っちゃた」

嘘だ。

包丁で切ったと言うのは事実。

けれど、切れた、のではなく、切った、のだ。

わざわざカモフラージュに野菜や肉を並べたまな板の前で、およそ野菜を切るには相応しくない様な握り方で包丁を持ち、

切り落とさんばかりの力で、俺は、自分の指を切りつけた。

ズキズキと肉が疼いて仕方が無いから、この先、神経はどうなるか解らないけれど、少なくとも骨は繋がったままの様だ。

「またか、、、あれ程気をつけろっていったのに」

完全に眼を覚ましたユウは、横たえていた上半身を起し、俺の左手首をそっと握った。

「痛いか?痛いよな、、、」

悲しげに瞳は揺らぎ、極小さく呟いた言葉は独り言の様だった。

その後に、「可哀想に」と続く唇を、俺は知っている。

表情には出さないが、その言葉を聞くと、俺の胸はコトリと音を立てた。

鼓動はざわつく。

「病院行こう、早くしないと」

ベッドから立ち上がったユウは、俺の腰を抱き寄せた。

片手で軽く抱きしめ、宥める様に頭を撫でる。

「もう、大丈夫だからな、もう少し、我慢できるか?」

耳に程近い頭に唇を寄せて囁くから、まるで脳に直接響く様に伝わる。

静かな声は子供をあやす様で、不安に逆立った俺の心をスッと沈めてくれる。

何物からでも守ってもらえそうな声と、優しい仕草。

甘い、甘い、贅沢を、俺は知ってしまった。

病院に行き、手当てを受け、包帯が取れる日まで、ユウは俺を直ぐにでも壊れてしまいそうなガラス細工が如く大切に扱ってくれる。

他のどんな人の前であっても、俺だけを、気にかけて。

それが、ほしくて。

麻薬の様な中毒に陥ってしまった。

「ユウ、我慢できない、、、痛い、、、すごく痛い」

「そうだよな、可哀想に、、、お前は不器用なんだから、もう料理なんてするなよ?心配だ」

「だって、、、僕は、ユウに美味しいご飯を食べてもらいたくて」

「嬉しいよ、、、すごく嬉しい。でも、俺の為にこんな、、、」

「ユウがずっと手を握っていてくれるなら、痛いの我慢出来るよ?」




この傷は深い。

きっと傷跡をつけて残るだろう。

俺の、心と、体と、細胞の一つ一つにまで、ユウが付けた、、、依存という、傷を。


(おわり)