レンズ越しの・・・編・5



何故テレビ出演の件を事前に知らせてくれなかったのか、問いたい気持ちは強くあれど、婉曲にすら聞けなかった。

クラインにはクラインの考えがあるのだろうと思うのが一つと、彼があえて言わなかった事を「何故」だと問うのもおこがましい気がした。

悶々としてしまう。

だがどうする事も出来ず、もどかしいばかりだ。

クラインの家には相も変わらず平日は二日に一度の割合で行っていても、その件についてはあまり話題に上がらない。

直哉からは口に出来ず、クラインも敢えて避けている印象だ。

そうして数日はあっと言う間に過ぎ去り、取材当日を迎えていた。

「取材は何時からだ?」

「十三時だそうです」

「先にクラインが話を進めるのだろ?」

「副支社長の開始予定は十五時ですが、支社長のみの取材や撮影にも参加してほしいとの事です」

「参加?・・・見学の間違いだろ。たった数分のコーナーの撮影に何時間もかけるなど、理解が出来ない」

副支社長室で、コーヒーカップを片手に三城が悪態をつく。

実際に口に出すか出さないかの差だけで、内心は直哉も同じくだ。

普段よりも研ぎ澄まされた面もちは、ポーカーフェイスと言うよりも冷たい。

だが他にどうする手だてもなく、直哉は足下を見るよう視線を下げた。

「それに、レイズは今日だけじゃないんだろ?」

「・・・はい」

「後日、自宅取材もあるらしいな」

「そう、伺っています」

「自宅、な。見られて不都合があるかどうかなど、あいつは考えてないだろう」

「・・・」

しれっと、いっそ独り言のように三城が呟く。

だが彼の仄めかすところは、直哉にもよく分かっていた。

今日は社屋での取材のみだが、来週末は彼の自宅で撮影が行われる。

先方は二日後の日曜日を希望したが、休日にも関わらず土曜の夜から日曜にかけてクラインに仕事が入っていた為来週にずれ込んでいた。

自宅での撮影は「セレブ社長令息のプライベートを大公開」という趣旨らしいとだけはクラインから聞いていたが、それ以上は何も言われていない。

三城の言わんとするところもそういった部分なのだろう。

三城に詳しく説明などした事はないし、半同棲生活を行って居るとも言っていない。

だが勘の鋭い彼は直哉がクラインの家に入り浸っている事を察しているようで、そうなると直哉の私物が皆無だとも思えないのは自然の流れだ。

食器が二セットずつなのは有り触れていても、使用中の歯ブラシが二本あるのは誤魔化しようがない。

仮にそれを彼女の物だと言えたところで、ウォークインクローゼットの片側には明らかにクラインのサイズではない男性用の衣類が並んでいる。

「相手に礼儀があるなら問題もないだろうがな。あぁいった連中にそういったものがあるのか、俺には疑問だ」

「・・・」

三城の言葉に、直哉も内心頷く。

がら空きのウォークインクローゼットへ、歯ブラシ一本から全ての荷物を放り込んで隠す事は可能だ。

だが、そこも開けられてしまうと――開けるなと言っておいても無断で開けられてしまう可能性を考えると、ぞっとする。

しかしぞっとするのは直哉だけではないか、と思うの気が休まらない一つだ。

「アメリカと日本では、違うのだと言っておけ」

「・・・はい」

言っている。

言っているうえで、あまり相手にしてもらえないのだ。

だがその内心こそ三城に訴えれる内容ではないと、直哉は唇を結んで顔を反らせた。

三城が直哉にクラインとの仲をからかう場面は殆どない。

公私混同を嫌う彼らしく、その為今回の件でそれを持ち出すのは、からかっているわけではなく直哉越しにクラインへ愚痴を言っているだけ、いわば八つ当たりなのだろう。

板挟みで気が重い。

だが直哉にしても三城に同意であるのだから、クラインの肩を持つ気にもなれない。

それもまたクラインに対して申し訳なくなり、すっきりと晴れない心境の堂々巡りだ。

「ま、今更だろうがな」

「・・・はい」

「なら、それまで仕事をこなすしかない。何を言っても、本業に差し障りを出していては意味がない」

「はい」

ため息混じりに吐き捨てると、三城は空にしたコーヒーカップをソーサーに戻し軽く押した。

もうその眼差しはパソコンモニターを見据え、研ぎ澄まされている。

それこそ、直哉のあこがれる三城であり、切り替えの早さも彼の美徳だ。

彼の置いたカップをそっと持ち上げる。

それを給湯室へ下げに行った直哉も、こみ上げるあまり喜ばしくない感情を切り替える努力をしたのだった。



  
*目次*