レンズ越しの・・・編・7



何故このような事になったのか、振り返ってみても腑に落ちない。

普段ならば予定外のアクシデントでも対処方法を探せるというのに、今はどうにも立ち振る舞いが見出せない。

「わぁ、イケメン揃いですね」

「こんな会社で働けたら幸せですね」

きゃぴきゃぴと声を弾ませる若い女性が二人。

「若い」と言ったところで直哉と五つも年齢が変わらない筈だ。

だというのに、まるで別の人種のようにすら思えてしまう。

生まれ育った国が時差にして十七時間も遠いクラインよりも、同じ国内で育っただろう彼女らの方が今の直哉には遠い存在だ。

クラインの執務室の窓の前に並ばされ、クラインや三城、それに水橋と比べられる。

居た堪れない空間に唇を結んだが、逃げ出す事は許されない。

――きっかけは、ディレクターの一言だった。

クラインの他に出演は三城だけだと聞いていたというのに、その秘書である水橋と直哉も是非に、という流れになっていた。

女性タレントの一人も言ったように、ディレクター・田町も「イケメン揃いの経営陣」が一般受けするとの事だ。

直哉も水橋も決して経営にタッチしていないので経営陣ではないし、「イケメン」という言葉にも非常に違和感がある。

けれど、所詮サラリーマンでしかない直哉にどれほど拒否権が認められているのだろうか。

不機嫌を露わにしながら出演が既に決定している上司・三城の「お前も出ろ」の一言が決定打となり、今直哉は彼らと並んでいた。

「テレビなんて初めてですし、予想外だったので緊張しますね。僕は支社長程見栄えなんてしませんし」

「水橋さん、何を謙遜を。支社長さんの秘書ってだけで立派な肩書きで、タレントでも通用する程イケメンじゃないですか。そんなに堅くならなくて良いですよ。いつも通り笑っててください。北原さんも」

「・・・はぁ」

普段通りも何もない。

特別緊張をしているつもりはなく、普段通りと言うなら笑みを浮かべないのも普段通りだ。

ディレクターへ黙礼を返すと、三城の後ろに隠れるよう一歩後ろへ下がった。

「すみません、カメラチェック行うので、少し待ってください」

カメラの向こう側から声が掛かる。

すぐ前の三城から、隠しもしないため息が聞こえた。

「たった数分、いや数秒のシーンだろうに大層な事だな」

「テレビの撮影というのも面白いものだね。当然と言うべきか、アメリカと日本では違う面も多い」

「違いが分かって良かったな。なら、もう今後一切取材なんて受けないでくれ。受けても構いませんが、俺を巻き込むな」

「これも仕事の一貫だと思えば楽しい一時だよ」

「思えんし、利益を生まないのだから事実仕事ではない」

「ハルミは手厳しいね。ねぇ、ナオヤ」

「っ・・・はい、支社長」

三城と話していた筈のクラインが、不意に北原へ首を捻った。

ふと口元を緩めて見せる様はさも目を惹き、細める瞼の奥の瞳は青い輝きがある。

取材中も散々に取材陣、それに女性タレントらの賛辞を浴びていた容姿も立ち振る舞いも伊達ではない。

付け焼き刃ではなく、育った環境故のそれはいっそ非現実的だ。

クラインへ取材依頼が来た理由は十分分かる。

ならば分からないのは、彼のような人が直哉に向ける好意という現実だろう。

「ナオヤも出てくれて嬉しいよ。放送が楽しみだね」

「いえ・・・私も、支社長のお役に立てれば、それで」

「その答えもとても嬉しいね。私もナオ・・・」

「北原はそう言うしかないだろう。北原も水橋からも、選択肢を奪っておいてよく言う」

取材陣は各々の仕事をし、女性タレントらはスタッフの女性にヘアメイクを直してもらっていた。

水橋はいつの間にか撮影スタッフの一人と何かを話している。

それを良い事に、煙草を取り出す三城は吐き捨てるように言った。

三城は元々ヘビースモーカーだが、本数は機嫌の悪さに比例する。

クラインの部屋でもおかまいなしに火をつけた三城に、クラインは何も言わなかった。

「私は、選択肢を奪ってなど・・・」

「自覚がないのか?坊ちゃん育ちならばそれも仕方がないのだろうがな。最近やけに目につくぞ」

「ハルミ、私は・・・ナオヤ」

クラインが、小さな呟きと共に直哉を眺めた。

いつにないそのまなざしは、一瞬揺らいだ気がした。

さすがと言うべきなのだろう。

三城もまた、クラインの性格の一端を見ていたようだ。

そして直哉とは違い、ストレートに伝えている。

「あの――」

「お待たせしました、撮影を再開します。まず、クラインさんが秘書お二人の紹介を――」

口にしかけた言葉をかき消すように田町が声をあげる。

それにハッとしたように、窓の前に並んだ面々が自然と列をなした。

あの時、違うと言えば良かったのだろう。

そのような事はないと言えば、クラインの面目は保たれた筈で、次いで三城のフォローをするのが社会人として正しい選択だったのかもしれない。

けれどそう出来なかったのは、やはりクラインとの間に私情を挟んでしまったからだ。

女性タレントと向かい合うようクラインが立ち、その横に水橋、三城と続く。

彼から一番離れた端で身を正す北原は、やはり笑みの浮かべ方など分からずにいた。




  
*目次*