清水の波紋・編・01



右側の助手席から車窓の空を見上げ、幸田はつい頬を綻ばせた。

梅雨の季節に晴れてくれただけでも有難かったが、幸田が上機嫌なのは天候だけが要因などではない。

「春海さん、無理言ってごめんね」

「構わない。元々今日は休日出勤をしないつもりでいたし、何より恭一から予定を聞かれるなど珍しいからな」

幸田以上に機嫌良くハンドルを握る三城は、チラリと幸田を見やり笑みを零した。

幸田の上機嫌の元は誰あろう最愛の恋人・三城だ。

ここ数週間、丸一日の休みらしい休みを取っていなかった彼にお願いし今日を休みにしてもらい、更に遠出にまで付き合って貰っている。

激務の三城の休みを奪う結果となってしまったが、それに対し嫌な顔一つせず、むしろ幸田からの誘いを喜んでくれた彼に心から感謝とそして愛情を感じていた。

毎年決まって雨で傘を差しながら一人寂しく行っていた事を、晴れ渡った空の下三城と二人で、となれば気分が上がるのも道理だ。

「どうせだ、帰りはレストランで食事でもして帰るか。横浜のホテルに旨いフレンチレストランが出来たらしい」

「うん、行ってみたいな。デート、久しぶりだね」

自分で言いながら、デートという単語にまた頬が緩む。

年に一度の大切な───両親の命日の墓参り。

それすら、三城と行えば立派なデートとなってしまう。

墓参りをデートにしてしまい不謹慎などと毛頭思わないのは、6年という年月故か、三城の存在故か。

今更再認識をするでもなく幸田にとって三城は特別で、ゲイである事を墓前ですら言った事のなかった幸田が初めて、生前の両親に会わせたかったと考えた程自慢の恋人だ。

少なくとも、過去の恋人たちは誰一人両親の墓に連れて行った事はないし、来たいと望んだ人も居ない。

「恭一のご両親の墓はプロポーズの日以来だな」

「あ、そっか」

「出来るならもっと頻繁に墓参りに行きたいんだが、悪いな」

「良いよそんなの。春海さん忙しいんだし」

首を振りながら妙に早口となってしまった。

三城があの日の、プロポーズの話しなど持ち出すからつい動揺してしまったのだ。

頬をが赤らんでしまったのは、日の光の目の錯覚という事にしてもらいたい。

未だ幸田姓を名乗ってはいるが戸籍上はもう「幸田」ではなく、男の身でありながらプロポーズを受け彼の戸籍に入ったのはつい数ヶ月前の出来事である。

それを後悔など微塵もしていないし、両親に対し恥じてもいない。

むしろ、ようやく本当に幸せになったと報告が出来誇らしいくらいだ。

「結婚式の写真でも持ってくれば良かったか?」

「そっそんなのお墓に見せたって、何にもならないよ。それより写真、誰かに見られたらどうするんだよ」

「それもそうだな。俺は写真を見られても構わないが。とりあえず、指輪でも見せて報告するか」

何処までが本気だったのか。

フッと鼻で笑ってみせた三城は、赤信号で車が停止すると裏返った声を震わせる幸田を目を細めて見ていた。

見つめ返した三城は、休日でラフなジャケットスタイルの今日も嫌味な程隙なく整っている。

再び信号が青になり、車は滑るように動き出す。

車道は山道へと変わって行き、あと少しで目的の霊園へ到着するとカーナビゲーションが知らせてくれたのだった。


  
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