新婚旅行リベンジ・編・12



やはり三城が運転手に告げていたのはホテル名だったらしく、数十分走った後に到着したそこは、内装も外装も豪華な高級シティホテルだった。

キョロキョロと辺りを見渡す幸田の腕を無理矢理引いて三城は手早くチェックインを済ませる。

壮年のホテルマンにスーツケースを預け、三城に腕を取られたままエレベーターへと向かった。

案内されたのは当然のように最上階で、聞きはしなかったし三城は言うわけもなかったが、スイートかそれに順ずるクラスの部屋である事は間違いないだろう。

重い扉を開け一歩足を踏み入れた途端、幸田は大きなため息を吐いた。

「わぁ・・・」

広い応接室は金を基調としながらも派手すぎる事はなく何処までも上品で、揃えられた家具や丁度のどれもが豪奢だ。

ホテルといえばスイート、だとでも思っていそうな三城のおかげでスイートクラスの部屋に宿泊する機会が増え目も肥えはじめた幸田だったが、此処は今まで見たどの部屋よりも美しく感じる。

そして何より、壁一面の大きな窓から一望出来るセントラルパークの夜景は心が引き込まれるようで視線が外せなかった。

衝動的に窓へ駆け寄り、眼下に輝く夜景を眺めた。

そこに広がるのは、色彩鮮やかに煌く美景だ。

「どうだ?気に入ったか?」

「はい、凄く綺麗です。」

これは三城が幸田の為に用意したものだろうか。

いつか三城は、高層階に住もうが宿泊しようがレストランに行っても夜景になど心奪われた事など一度も無い、と言っていたから、この部屋を選んでくれたのはきっと自分の為だろうと自惚れてしまう。

───ガチャリ

小さくけれどはっきりとした声で挨拶を残したホテルマンが出て行き扉が閉まる音を聞くなり、三城は後ろから幸田を抱きしめた。

首筋に吸い付かれ、息を呑む。

「お前の方がこんな物よりもずっと綺麗だ。」

広い肩幅から伸びた腕が幸田を包み込み、耳元で三城のバリトンヴォイスが響いた。

「なっ・・何言ってるんですか。」

ただそれだけでゾクリと背中が震え、視界には美しい夜景が映っているというのに、気持ちは既にそこにはなかった。

三城の存在だけが、全てに思える。

「あぁ、すまない。お前は『可愛い』の間違いだったな。」

クスリと笑いを含んだ口調で囁く三城の唇が耳たぶに触れた。

声を発するたびに振動と吐息がリアルに伝わり、胸がドキドキと煩く鳴り響く。

耳が弱いのは幸田もそして三城も知っており、攻め立てられたくはないと逃れる為俯いたが、三城の唇は可能な限り追いかけてきた。

「春海さん・・やめてください。」

これ以上言わないで。

この年で可愛いだの綺麗だのと言われると恥ずかしくて甘美に辛いし、耳を刺激されれば直接的な快感にも繋がってしまう。

「何をやめるって言うんだ?」

幸田の心情を知ってだろう。

三城の手は、片手で幸田を抱きしめたままもう片方でその身体を弄った。

胸から腰、腹部をなぞり太ももを撫で上げられると、ジーンズの上からでも三城の手の感触はしっかりと感じられた。

「やめっ・・・」

まだ客室に入って間もなく、一息だってついていない所だ。

時刻だって現地時間でまだ22時にもなっていない。

だというのにいきなりベッドに傾れ込むなんて不健全極まりないじゃないか、と思う反面身体に上がる熱を無視など出来なかった。

唯でさえ長い間三城に触れたくて触れたくて仕方がなかったのだから、此処で我慢する理由はないようにも思える。

不健全のどこがいけない?

そう自問自答したが最後、幸田は首を捻り三城に唇を求めた。

「春海さんっ」

「っ・・・」

幸田の唇をすぐに奪っていった三城のそれはとても熱い。

急速な動きで囚われた舌は、三城の好きなように遊ばれ、幸田の瞼は自然にキツク閉ざされた。

「んっ・・・ぅん・・」

思考を奪われるのもすぐで、荒い息に混じり制御出来ない声が唇から漏れた。

「恭一・・・」

口付けの間に三城が名を呼ぶ。

「好きだ・・・愛してる。」

自分もだと返したいのに、その隙を与えられる間もなく幸田の唇は三城に襲われる。

「ぅくっ・・」

息が上手く出来ない。

キスをしながら声も溢れてしまい、上手く呼吸をする方法を思い出せない。

重い瞼を開けトロンとした瞳で三城を見上げると、ようやく唇は離された。

「そんな目で見るな。丁寧に準備をしてやれなくなる。」

眉間に皺を寄せて忌々しげに放った三城の言葉を、幸田は理解出来ていないのであった。


 
*目次*