新婚旅行リベンジ・編・19



結局、三城の勧めるホットサンドを食べに行ったものの、ランチは酷く慌しいものとなった。

なんだかんだで出かけるのが遅くなった上に、予定よりも早くパーティー会場へ向かわなければならなくなったからだ。

「悪いな。取引先のルイーダ社長が早々に到着すると連絡があって、俺もそれに合わせなければならなくなった。何でも『思っていたより道がすいていた』らしい・・・そんな事知るか。」

ランチの最中に掛かってきた電話を切るなり三城は苦々しそうに悪態を吐き幸田へ謝罪を向けたが、仕事なら仕方がない。

それにやはりと言うべきか、半熟の卵とトマトなどが挟まれたそのホットサンドも一緒に注文したカフェオレもとてもおいしくて気分はとても良かった。

「春海さーん、これどう使うの?」

寝室で真新しいスーツ一式に着替えていた幸田はジャケットまで着用し終わると小さな黒い箱を手に、パウダールームに居る三城の元へかけていった。

二人がランチから戻ると予定通り大きな薄いブルーの箱が届けられており、中にはブラックストライブのスーツと美しい藤色のドレスシャツなどが入っていたのだ。

あまりに綺麗すぎるそれらに、触れることすら躊躇われてしまう。

三城から贈られる物は「分不相応」という言葉を感じる場合が多いが、これは一際強く思ってしまう。

ピンホールシャツなんて初めてだし、着替えた後に気がついた黒い箱にはカフスピンと用途不明のキラキラと光るアクセサリーが入っていた。

赤い石が嵌め込まれた小ぶりなピンが二つと、揃いの石が左右に付きチェーン飾りが左右をつなぐように渡された一本ピンだ。

揃いの指輪や時計以外のアクセサリーなど付ける習慣がなく、ましてやスーツはビジネスでしか着なかった幸田には縁遠い物だった。

この石は何だろうか。

やけに光っているが、イミテーションだろうか。

宝飾に詳しくも興味がある訳もないが、三城ならば安物を用意しないだろう事だけは解った。

パタパタとスリッパを鳴らしながらパウダールームへ入ると、鏡の前にはチャコールグレーのスリーピースに身を包んだ三城が居た。

いつも以上に丁寧に整えられた髪にビシッと決まった立ち姿は映画俳優顔負けに格好良く、紫のポケットチーフも嵌り過ぎていて見惚れるなという方が無理だろう。

「なんだ?あぁ。恭一手を出せ。」

幸田へ向き直った三城は差し出された箱を見ると納得したように頷き、幸田の手を取った。

ジャケットからシャツの袖口を引き、そこにある小さな穴へ小ぶりなピンを通し慣れた手つきで止めた。

「カフスピンは初めてか?」

「うん、使う機会なんてないよ。」

反対側も同じようにする三城の手元を見ながら、くすぐったそうな声で言った。

なんだか、少し照れくさい。

三城はオフィスに行く時も時折使用している為見た事は何度となくあったものの、幸田自身が使った事等なかった。

彼の会社や立場がどのような物で、それが普通なのか特別なのかは解らないが、少なくとも幸田の同僚にもそんな物を着用している人はいない。

「・・・これは、こっちだ。」

三城は幸田の襟元に触れ、もう一つのピンをそこへと突き刺した。

「顎を引くな。上向いてろ。」

「あ、ごめん・・・」

チャラチャラと金属が触れ合う音だけが聞こえて来るので、何をされているのかとても気にはなるのだが自分で見ようとするのは無謀だったようだ。

「出来たぞ。」

「・・・・・」

ツイと鏡の前に押し出されれば、鏡に映る自分を見て思わず赤面を浮かべてしまった。

着慣れない色のシャツに銀に近い色合いのネクタイ、シャツの左右の襟の先には赤い石が光りネクタイを跨ぐ様にシルバーのチェーンが二重下がっている。

「よく似合っている。」

鏡の中の幸田を優しげな眼差しで見つめながら、三城は後ろからその細い両肩に手を置いた。

「あっありがとう。でも・・なんだか・・・」

「気に入らなかったか?」

「違うっ!そうじゃなくて・・・」

三城が自分の為に選んでくれた物だ、気に入らない訳がない。

そうではないのだと幸田はゆるゆると首を振り、肩に置かれた三城の手に触れた。

「そうじゃなくて、ただ少し恥ずかしいなって。こんなにおめかしして。」

冗談まじりに笑って見せると、三城も同じように唇を上げた。

鏡の中で交差する視線が、とても熱い。

「そうか?・・・そうだな、出来れば二人きりのディナーの時にそうしてもらいたかったよ。」

「春海さん・・・」

「また着てくれるだろ?」

「うん、もちろん」

「この姿を皆の前に晒すなんて、もったいなくて仕方がないな。」

「何を、言ってるんだ・・・」

そんな価値ある物でもないだろうと口ごもると、耳元で三城はクスクスと笑った。

からかわれているのか本気なのか。

計りかねない彼の口調に、何故ともつかない羞恥心がこみ上げる。

「・・・・」

そのうえ、それをもし本気で言うのなら、幸田とて同じ気持ちだ。

今の三城はきっと多くの視線を集めるだろう。

最愛の三城が格好良いのは喜ばしいはずなのに、どうにも嬉しがってばかりもいられないのだ。

「僕も、同じです。今の春海さんを他の人に見せたくないです。」

言ったが最後、こみ上げ始めていた羞恥心は止められない。

一体自分は何を言っているんだ。

これではまるで───

「とんだバカップルだな。」

まるで三城が幸田の心情を代弁するように呟いたので、思わず笑ってしまった。

三城が幸田を後ろからギュッと抱きしめる。

鏡の中の彼は、幸田とは裏腹に羞恥の欠片も見せることなくニヤリと口角を上げていた。

クスクスと笑い合っていると、リムジンの到着を知らせ三城の携帯が鳴らされたのだった。




  
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