新婚旅行リベンジ・編・21

*注意*『』内のセリフは英語です。

雰囲気だけで察するに、大きな拍手の中今日の主役が登場しパーティーは始まったようだ。

今夜の主役・すなわちC&Gの社長がどんな人物なのかとても興味を持ったが、残念ながら幸田からは人壁にによってステージを見る事は出来なかった。

周囲の男性は皆一様に長身で、日本ではいざ知らず幸田などとても小さい部類に入るのだ。

そんな中でも隣に立つ三城は、身長も体格も全てにおいて見劣りする事など微塵もなかったのだが。

いくらステージが見たいとはいえここでは背伸びをするなんて格好悪いし、例えそんな事をしたって劇的な効果は望めないだろう。

諦めながらもとりえず礼儀だろうとステージを眺めているふりをしているといつのまにか三城の指も離れてゆき、間もなくスピーチが終わったのか参加者達が散り散りと会場内に別れていった。

静まっていた会場内にざわめきが戻り、あっという間に周囲はパーティーらしい(と幸田が感じる)雰囲気に包まれる。

すっかり空になったグラスを幸田から取り上げた三城は、己のグラスと共に通りかかったボーイへ返した。

「恭一、何か食べるか?」

フッと笑みを浮かべる表情は、疎外感すら感じてしまいそうな場所にいたとしても何よりの安心感を与えてくれる。

「うん。食べたいかも・・・あ、でも社長さんに挨拶しないと。」

「すぐに行かなくてもいい。今頃俺なんか下っ端よりもずっと重要な人物の元へ向かってるだろう。」

三城はいかにも面倒そうな口調で片手を振って見せた。

彼の正確な地位は知らない(想像もつかない)が、自社の社長が主催するパーティーともなれば日本支部の営業部長など「下っ端」にあたるのかもしれない。

立場や地位は目に見えない故に解らないが、参加者の中では幸田や三城は圧倒的に若くある事は事実だった。

極庶民の幸田からすれば、お呼ばれしたのだからまず挨拶、と考えてしまうのだがここは三城の言葉に従う事にした。

「そうなんだ・・・うん。じゃぁ、後で」

少し申し訳なく思いながらも頷き、ビュッフェスタイルの料理が並ぶテーブルへと向かおうとした幸田の背中に凛と透き通ったやたらと張りのある声がかけられた。

『ハルミ、探したぞ』

『社長』

「・・・」

明るい声に振り返った三城につられ、幸田も立ち止まると声を主に視線を向けた。

そこに居たのは、堂々とした立ち姿に圧倒されてしまいそうな50歳前後の欧米人と思われし男だった。

声の印象を裏切らない溌剌[はつらつ]とした笑みを浮かべ、グレーの髪は後ろに撫でつけられている。

日本ではあまりお目にかかれないような広い肩幅や太い首は、白いスーツがとても似合っておりボウっとなってしまいそうな程格好良い。

『お久しぶりです。この度はお誕生日おめでとうございます。』

『堅苦しい挨拶は抜きだ。そちらが君のパートナーかい?』

『はい。キョウイチ・コウダです』

そんな事を考えてしまっていたので、その男性に自分に向け片手を差し出された時は不覚にもドキッと胸が鳴ってしまった程だ。

『はじめまして、ローラン・クラインです』

「・・・えっと」

さすがに彼が名乗ったとは解ったが、咄嗟に彼の手を握り返したものの、なんと言っていいのかわからない。

視線を泳がせていると、どこか鋭い声の三城が幸田の腰を引き寄せた。

『社長、申し遅れましたが、恭一は英語が喋れません』

「あぁ、そうだったのかい。失礼しました、はじめまして。私はC&G社長ローラン・クラインです」

目の前の男がC&Gの社長だと言われれば、なるほどすんなりと納得をしてしまう風格だ。

彼が現れたというだけで相当な緊張を用要るのだが、それに加え先の三城の言葉を思い返せば尚更である。

ローランがステージを降りた時間を考えるに、三城の言う「もっと重要な人物」を差し置いて来てくれたとしか思えないからだ。

「はじめまして。幸田恭一です。この度はお招きくださり・・・・」

「いえ、遠い所及びたてしてしまって申し訳なく思っています。本来ならば私からお伺いすべき事を」

「そんな・・・・」

ローランともあろう立場の───三城の会社のトップである彼にそうとまで言われてしまうと恐縮するしかない。

幸田のぎくしゃくとした態度がおかしかったのか、ローランは目を細めるとニヤリとした笑みを三城へ向けた。

『なるほど、君が夢中になるのも頷けるね。もっとも、想像していたよりもずっと日本人的で奥ゆかしい方だが』

『どういう意味ですか』

『君がパートナーとして選んだ人物なのだから、もっとドライで気位の高いタイプかと思っていたんだ。だが彼は謙虚そうで・・・そう、ヤマトナデシコだね』

『・・・・』

『純粋そうじゃないか。ハルミには勿体ないね』

『それは恭一が決める事かと』

『まったくだ』

ハハハッと声を上げて愉快げに笑うローランに対し、頭上の三城からはすっかり笑みが消えている。

幸田には理解の出来ない会話に何があったのかと、幸田はオロオロと二人を交互に見たのだった。




  
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