新婚旅行リベンジ・編・24

*注意*『』内のセリフは英語です。

理由は定かではないが、確実に三城は苛立っている。

傍らの彼を視線だけで見上げ幸田はため息を呑み込んだ。

ローランとは個人的にも付き合いが長いのだとしっかり解ったが、だからといって自社の社長である彼に横柄な態度は如何かと思うのだが、自分が三城にモラルを問えるとも思い難い。

そんな事を言っても三城が素直に聞き入れるかは疑問で、その上大抵の場合彼の方がモラルも社会常識も的確なのである。

だからこそ彼は人の上に立てるのだろうし、いくら幸田がヒヤヒヤしていてもローランが笑っているのだから問題はないようだ。

英語を交えつつ話をしていたローランが、話の区切りがつくかつかないかという頃合に突然片手を振った。

「そろそろタイムオーバーらしい」

大げさにため息を吐き視線を反らせると、その先にはいかにも生真面目そうな面持ちの男が居た。

身なりは整っているものの着飾った参加者の中では地味な印象を受けるローランの部下らしき男は、幸田達と視線が合うと小さく頭を下げた。

「重客への挨拶周りもまだなのでしょう?順番を気にする方もいらっしゃるのですからお行きください」

「そう言ってくれるな。私は何よりキョーイチに会いたかったんだ。キョーイチ、今日は本当にありがとう。次は日本でお会いしましょう」

「はい。僕も、楽しかったです。」

「やはり可愛らしい方だ。では行くよ。ハルミはまた数日後に」

「はい。・・・・・・・やっと行ったか」

ニッと笑みを残し部下の元へ戻って行ったローランの後姿が小さくなるや否や、三城は正に辟易としたとばかりの口調で呟いた。

三城が外で態度を悪くする事は時折あったが、ここまでとは珍しい。

大きくため息を吐く三城に、幸田は僅かに身を寄せた。

肩と肩が触れ合うと、日本語が解る人がどれ程居るか解らないながらに、幸田は声を潜めた。

「ローランさんと仲が悪い訳じゃないんだよね?」

「あぁ。そんな訳ではないのだが、ただ・・・からかわれている状況が我慢できないだけだ」

「からかわれてる?」

ローランが三城をからかっていたようには少なくとも幸田には感じられなかったが、プライドの高い彼からすれば面白くない状態だったのだろう。

「俺よりも恭一だ。つまらない事につき合わせて悪かった。」

「ううん、僕は大丈夫。春海さんの過去を知れて嬉しかったし」

「そうか・・・お前がそう言うなら」

三城はまだ顔をしかめており納得をした風には見えなかったが、とりあえずとばかりに頷いて見せた。

だがそれは幸田の本音だ。

彼は自分の過去を自ら話すタイプではないので、知らない事はまだまだ沢山ありそうだ。

「一応メインイベントは終了だな。・・・・恭一、すまないがどうしても挨拶をしなければならない方が数名いらっしゃる。それさえ終わればいつでも帰れるから、さっさと済ませてこようと思うのだが、少し待っていてくれるか?」

そういえば、予定よりも早く会場にやってきた理由もどこぞの社長に会う為だと言っていた。

挨拶周りも立派な仕事の一部なのだと、そんなものには縁のない仕事をしている幸田にもなんとなくわかる。

「うん、わかった。じゃぁ・・・壁際で待ってる」

「そうしてくれるか?」

悪いな、と呟き三城はホールの中央へと向かった。

颯爽と歩いていく背中を見ていると思わず魅入ってしまいそうになる。

こんなにも沢山の人が居たとしても、彼は周囲とは違ったオーラを放っているように思えてしまう。

そうと感じたのは幸田だけではないようで、一人の女性が三城に声をかけたのをきっかけに彼はすぐに数人の女性達に囲まれてしまった。

老若問わずドレスに身を包んだ女性達の姿で三城がどこに居るのかも解らなくなる。

あの中に三城の目当ての人物が居るのかすらわからないが、長くなりそうだという事は確実だ。

こんな真ん中に突っ立っていても邪魔になるだけだろう、と幸田は先ほどの言葉通り人気の無い壁際へ足を向けた。

飲み物か料理を取って来る事も考えたが、なんとなく人の多い中央へは行きたくはない。

そこに三城が居るかも知れず、見知らぬ女性と仲良く話す彼を見るのが嫌なのかという考えは頭の隅に追いやった。

長期戦を覚悟している幸田はだらしなく見えない程度に壁に背を預けた。

改めて周囲を眺めて見ると、視界を通りすぎる人々は男女共に煌びやかで、見るからに「金持ち」といった雰囲気だ。

その中で自分は貧相に見えていないか、三城と不釣合いではないかとつい不安になってしまう。

考えても仕方がない、と思いながら緩く瞼を閉じると、傍らから声が掛けられた。

『お一人ですか?』

ハッとし振り返ると、そこには長身で金髪が眩しい男性が立っていた。

「・・・・・・」

年の頃は三城と同じか少し上で、彼に負けず劣らずの端正な顔立ちをしている。

高い鼻梁や切れ長の瞳、薄い唇は綺麗に微笑んでおり、つい頬が赤くなってしまった。

彼は三城と似た雰囲気をしており、つまるところ幸田の好みの顔立ちである。

『折角の綺麗な貴方が壁の花だなんて勿体ない。退屈なのでしたら、二人で抜け出しませんか?』

ニコリと微笑んだ彼は手にしていたシャンパングラスをスッと幸田に差し出した。

その仕草一つとってもとてもスマートで、彼の地位の高さすらも表しているようだ。

琥珀色の液体が気泡を上げながらグラスの中で揺れるそれを、幸田は反射的に受け取った。

───もちろん、何を言われていたのか一言も解らないままに。




 
*目次*