新婚旅行リベンジ・編・3



新生活に慣れたと思えばすぐにGWがやってきた。

日本の祝日が集まったこの大型連休は、外資系しかも海外営業部の三城には関係の無い話しで、幸田が9日間も休みがあるというのに彼は平常通り仕事だという。

だというのに、「調整がきけば休むから、GWは全て予定を空けておけ」と告げられ、横暴とも思える内容ではあったが幸田は素直に頷いた。

元々予定もなければ出かけたい友人も居ないし、たとえ大石や三枝と会うとしたって二人とも平日夜の方が都合がいいだろう。

そんなこんなで、土曜日から始まった連休の朝は、毎度の如く昨晩のSEXの疲れも取れきらないまま迎えられたのだった。

じっとりと身体が重いのももうお馴染みで、けれどこれこそが幸せなんだと思えるあたり幸田にもようやく免疫がついたようだ。

「ん・・・・」

薄ボンヤリと目が覚め、寝返りを打って隣を見てもそこに三城の姿はない。

休日でも三城が遅くまでベッドの上で過ごす事は少なく、稀にあるとすればその時は幸田の身体に動けない程腕が巻きついているだろう。

鉛のような、とはこの事だろう程身体が重くはあったが、このまま布団に潜り続けるわけにもいかず、のそりとベッドから降りた。

以前の家と同様に、大きな家具といえばベッドとサイドボードくらいしかない室内を見渡しながら、硬くなった筋肉を解す為に首や腕を回す。

この部屋も他と同じくモノトーンで落ち着いた雰囲気だが、ここを特別な空間にしたくて「二人の記念になる物を飾ろう」という話しをしてはいるのだが、なかなか良い物も見つからず実行に移せていない。

最後に大きく伸びをすると寝乱れたバスローブを見れる恰好まで着なおす。

寝室を出て廊下とリビングを仕切っている扉を開けると、コーヒーの芳しい香りが鼻腔を擽り思わず深く深呼吸をした。

「おはようございます。」

室内灯が不要なほど太陽光が差し込む中、三城は定位置のソファーに座りミニノートを弄っており、ローテーブルの上にはコーヒーや新聞だけが置かれている所を見るとビジネスをしている様子は伺えない。

「起きたか。そろそろ起こしに行こうと思っていたんだ。」

顔を上げた三城はフワリと優しげに笑み、隣に腰を降ろした幸田の肩を抱き寄せた。

今日の彼はいたってカジュアルな装いで、白の開襟シャツから覗く鎖骨に視線を奪われてしまう。

「腹は減っていないか?」

「そういえば・・・」

ふと壁にかけられた時計を見ると時刻は午後1時を回っていて、それを知ると急に空腹感が襲ってきた。

「デリバリーも時間が掛かるし、少し我慢出来るなら外で食わないか?」

三城は特別に感じないようだが、極庶民と自負する幸田にしてみれば朝食(時間的には十分昼食なのだが)からデリバリーを頼むのは気が引け、そのうえ時間も掛かると言われれば外食で十分だと自ずと頷く。

「そうですね、解りました。春海さんも何も食べていないんですか?」

「あぁ、大したものが無くてな。コレだけだ。」

言いながら三城はコーヒーカップを視線で指した。

どれほど前から起きているかは知らないが、それでは腹が減っているのは三城の方だろう。

自分が起きてくるのを待っていたのかと思うと申し訳なくなってしまう。

「じゃぁ、用意してきますね。」

「待っている。」

三城は額にキスを落とすと名残惜しそうに幸田から手を離し、甘くくすぐったい感覚に幸田もつられてクスリと微笑んだ。

グズグズしても悪いと幸田は立ち上がると、小走りに自室へ向かいウィークインタイプのクローゼットを開ける。

まだガラガラのハンガーポールを横目に、備え付けのチェストからジーンズと薄手のロングTシャツ、それに下着を取り出しバスローブを縫いでそれを丁寧に畳んだ。

今日は三城も普段着だったので、自分もこれでかまわないだろうと着替え始める。

三城は休日であってもちょっとした用事でスーツを着用し、それどころか幸田には「ラフな恰好で」と言っておきながら自分はそうでない事が度々あった。

結果殆どの場合出先で幸田だけが浮いてしまい、「何故スーツにしろと言わなかったのだ」と思う事も多く、三城に悪意も他意もないだろうし仕事以外でスーツなど着なかった幸田を想っての事だろうが、余りありがたくも無い。

「でも、今日は大丈夫だよな。」

ただ朝食兼昼食を食べに行くだけで、三城は髪も降ろしていたし服装もむしろ部屋着に近かった。

「まさか、また銀座とかじゃないだろうし。」

銀座のカフェかレストラン、という選択肢も三城の中に無くはないだろうがそれを見越して自分だけが硬苦しい恰好をしていればそれこそ笑いものだ。

明るい声で独り言を言いながら、靴下を履き、時計を嵌める。

この恰好には幾分不釣合いな時計も、袖で半分隠れるから大丈夫だろうと自分を納得させた。

「こんなもんかな。」

姿見を前に上から下までをチェックし、リビングへと戻った。

「春海さん!?」

「どうした?準備は出来たか?」

どうしたこうしたもない。

あれほど危惧したというのに、そこには先ほどまでとは打って変わってキッチリとスーツを着込んだ三城がネクタイを締めながら幸田に微笑みかけていた。

まさか自分と同じタイミングで着替えるなんて全く頭に無い。

「やられた」「騙された」と内心繰り返しても、どうしてだか「自分も着替える」とは言い出せない幸田は嫌な予感を感じながら、「大丈夫です」と引きつった笑みを返したのだった。




  
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