新婚旅行リベンジ・編・32



自分だけがかしこまった白のタキシード姿というのは、例え二人きりの車内であっても気恥ずかしいものである。

慣れきった仕草で右側通行の道路を運転する三城は、時折幸田に視線をやってはニヤリと意味深な笑みを浮かべた。

着替えどころかジャケットを脱ぐ事やネクタイを解く事すら許しては貰えず、幸田は羞恥と居た堪れなさに耐えながらも座席に小さくなるしかなかったのだ。

信号待ちで停車しているとすれ違う車や通行人からの視線も痛かったし、それ以上に宿泊するホテルに到着するとロビーを突っ切りフロントでキーを貰わなければならない時間といったら逃げ出したくなる程である。

隣に居るという事で同じく視線を向けられているはずの三城は、けれ当本人ではないという余裕からか、まさか一目を集める事に馴れてしまってるのか、余裕たっぷりに悠々としていた。

早く部屋へ行こうとする幸田をよそに、いっそ腰を抱く勢いでゆっくりと歩こうとすらするのだ。

さすがに幸田の辛抱も堪らなくなった頃、ようやく二人は部屋へと到着したのだった。

「春海さんいくらアメリカだからって」

二人きりの客室の扉が背中で閉まると、幸田はムッとした声を出した。

部屋にはメイキングが入ったのか、僅かに散らかっていた室内は綺麗なものである。

中央に置かれたテーブルの前で私服のジャケットを脱ぎ着崩している三城に対し、幸田はまだきっちりとタキシードのままだ。

煌びやかなホテルの中でその格好は全くの場違いだとは言わないものの、自分一人がそうであると考えると話は違う。

眉を寄せる幸田に、三城は悪びれる様子も無く口角を吊り上げた。

ニヤリとした笑みが狡猾で、腕組みをした仕草がこれでもかと嵌っている。

「良いだろ?見せびらかしたかったんだ」

「見せびらかし・・・って、目立ったかもしれないけど、それは皆こんな格好で驚いただけだよ」

「違うな。お前だからだ」

「・・・そんな風に思ってるのは春海さんだけだって」

「何だ?俺の意見が間違っているとでも言うのか?」

「そうじゃなくて。っていうか、そうだよ!春海さんは間違ってる」

「言うな。その根拠はどこにある?」

「どこって・・・」

言いたい事を言っているはずなのに、意思の半分も三城に伝わっていない気がする。

そのうえ返答に困る質問すら返されてしまい、幸田はますます眉を潜め近くの壁に背を預けた。

「春海さんはずるい。いっつも僕を煙に巻いて」

「そんなつもりは無いんだがな」

「巻いてるよ。そりゃぁ僕は春海さんほど頭の回転も速くはないし、ボキャブラリーも多くはないけど」

「何を拗ねている?そんなに嫌だったか?」

「嫌っていうか・・・ただ恥ずかしかっただけだけど・・」

「悪かったよ。だが許してくれ」

相変わらずの悪びれない態度で言うと、三城は幸田に覆いかぶさるように壁に手を突いた。

シャツは開襟で、そこからフレグランスの香りが漂うとドキッとしてしまう。

三城の腕が幸田の腰に回され、力強く引き寄せられた。

「どうしても、このままベッドに連れ込みたかったんだ」

腰を折った三城の唇が、耳元で囁く。

それだけでも十分にゾクリと背が震えてしまい、声が上手く出せない。

幸田の小さな不満など、彼にとっては取るに足らないものなのだろうか。

彼の一言一動に心揺さぶられ、頬が赤らむのを感じながら幸田はせめてもの反抗と顔を背けた。

「ホテルに戻ってからもう一度着たって良かったんじゃない?」

「ダメだ。そんなにも待てない」

きっぱりと断言をした三城は、幸田の顎に新しい指輪が光る指を添えると自分の方へと持ち上げた。

強制的な仕草に、けれど抗う事など出来ない。

困惑と戸惑いから彷徨っていた視線すら、知らずうちに三城へと吸い寄せられてしまう。

瞳の先には、自信家な彼の笑みがある。

三城は鼻が当たりそうな距離まで顔を近づけると、例え他に誰が居たとしても幸田にしか聞こえないであろう声音に潜めた。

「これでも優しくしてやりたいと思っているんだ。あまり焦らすな」

「焦らしてなんか・・・」

「そうか?なら、今すぐベッドへ行ってかまわないな?」

「・・・うん」

キスをされるとばかり思っていた距離にまで顔を近づけておいて、三城は囁くだけで離れていってしまった。

「あ・・・」

焦らしているのは一体どっちだというのだ。

急激に掻き立てられる劣情に喉が詰まり、触れられるとばかり思っていた唇は、物足りないとそこに変に意識が集中してしまう。

腰からも手を離されてしまい、先に歩き出しそうな三城に、幸田は咄嗟にその腕へ縋り付いていた。

ドクンとなる胸に、自分でも驚いてしまう。

「待って、春美さん、僕も待てない」

「どうした、急に」

鼓動が無意味な音を立て速度を上げる。

何もしていないというのに呼吸が荒がり、気ばかりが逸って上手く話せなかった。

「えっと・・・キス、して?」

「キスだけか?」

「抱きしめて、それから・・・もっと」

身体中を撫で回し、連日愛されているペニスにも触れて欲しい。

目が潤み、焦燥と失望感にも似た渇きが止められなかった。

「それから?」

幸田の答えを待たず三城の腕が伸びたかと思うと、瞬きをした次の瞬間には彼の胸の中に居た。

下腹部を密着させられ、閉じる事さえ忘れてしまった唇は彼の口付けによりようやく感覚を取り戻したかのようだった。

「んっ・・・」

何度も交わした三城とのキス。

けれど何度経っても慣れる事のない快感。

彼のキスを知るまで、それがこんなにも良い物だなんて思いもしなかったというのに。

「あっ・・ぅん・・」

甘く切なくなるまでに心地良い。

触れ合っているだけでも満たされた気分になったというのに、彼の舌に舌を絡められると脳が痺れる。

されるがままのキスは身体を変化されるのには十分で、密着した下半身に熱が集まり明らかな勃起に腰を引きかけた。

「はっん・・・ぁ」

だが三城がそれを許す筈もなく、同じく変化を見せる彼のそこを更に強く押し付けられた。

何重もの布越に、互いのペニスが触れ合う。

半端なセクシャルはオープンなそれよりも淫靡に感じるもので、普段感じない部類の羞恥心に襲われた。

「やっ・・ぁっ・・」

キスの間に漏れる声を止められず、興奮ばかりが嫌な程に高まる。

微弱な接触だけなど余計に欲望が増すばかりだ。

自らも強く腰を押し付けると、三城はニヤリと笑い唇を離した。

「そろそろ限界だな、俺も恭一も。優しくはしてやるが丁寧には出来そうにない」

早急な仕草で身体を離れたかと思うと、三城に腕を掴まれ言葉を挟む隙など微塵も無いまま。すぐ隣にあった寝室の中へ連れ込まれたのだった。




 
*目次*