新婚旅行リベンジ・編・34



三城が一日中仕事となる最終日、幸田は一人どう過ごそうかと考えていた。

言葉も通じないニューヨークの街を散策するのは怖い気もするけれど、ホテルの部屋の中でダラダラと過ごすのももったいない気がする───と。

けれどそんな心配は全くの杞憂に終わってしまった。

己の意思・希望に関係なく、幸田はなし崩し的にベッドの上に留まざる得なくなったのだ。

結婚式から帰った後ベッドへなだれ込み、休憩も食事も無くこれでもかとSEXを繰り返した。

途中、限界だと訴えたけれど三城は全く聞き入れてはくれず、気を失っても揺り起こされる始末。

そんな三城は最近にしては珍しく故に戸惑いながらもなかなか逆らう事など出来なかった。

何度吐精を迎えたのかなど正確には覚えてはおらず、最後は吐き出すものなどない。

とても疲れて止めて欲しいと思ったけれど、それでも「愛している」という免罪符を口にされれば怒る気にはなれないというのが幸田である。

本格的に身体が動かなくなった頃、意識はフェイドアウトして行き、どうやら眠ってしまったようだ。

「・・・・はぁ・・・」

次に気がついた時には隣に三城はおらず、代わりに「仕事に行って来る」というメモが残されていた。

わざわざ枕元にそれを残したというのは、幸田が起き上がる事が出来ないと見越してだろう。

幸田はチラリとメモを確認すると、三城の少し癖のある文字が書かれたそれを握り締め再び眠りに落ちていったのだった。

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深い眠りから浮上したのは、寝室内に物音を聞いたからである。

夢うつつの中、ガサゴソと申し訳なさそうな音に誘われ幸田は目を覚ました。

ぼんやりと開けた瞼は、けれど瞳に映った物を判別するのに時間が掛かる。

「・・・・あ・・」

「起きたか、恭一」

「・・・春海さん・・・帰ってたの?」

「あぁ、さっきな」

長時間眠ったからか軋む身体をベッドの上で起こすと、ジャケットを脱いだ格好でネクタイを緩めている三城が居た。

少し疲れの見えるその横顔は、昨晩の彼とはまるで違いストイックにすら感じる。

「ずっと寝ていたのか?」

「・・・うん、ごめん」

何でもない口調の三城に、けれど幸田は眉を下げた。

制止を聞き入れてももらえず「抱き潰」されたのだから、一日動けなかった責任の殆どは三城にあると言えるだろう。

けれど自分が寝ている間三城は仕事をしていたかと思えば申し訳なさが沸き起こる。

彼が仕事で自分は休み、またはその逆であるなど初めてではないというのに。

連休中一緒に居すぎたからかも知れない。

「謝るな。そうさせたのは俺だからな」

ニヤリと笑う顔は、やはり三城だ。

ストイックどころか、今すぐにでもまた押し倒されてしまうのではないかという表情を浮かべるので身構えてしまったが、幸田の心境を知ってか知らずか彼はベッドの側に置かれたコーヒーテーブルの椅子を引いた。

「身体はまだ辛いか?」

いっそぶっきら棒な口調で言いながらテーブルの上に置きっぱなしだった煙草を手に取る姿を、何気なく視線で追う。

煙草を咥える手で今の表情は見えないものの、もしかすると心配をしてくれていたのかもしれない。

「ん・・・ううん。もう大丈夫だと思う。それよりお腹、空いたかも」

「そうだな、一日食べていなければ当然だろう」

「え?今何時?」

「21時過ぎだ」

「・・・もうそんな時間なんだ」

ホテルに戻ってから24時間以上経っていたのだから空腹を感じても当然だ。

思えば昨日の夕食も申し訳程度しか口にせずSEXに没頭していた為、まっとうな食事を摂ったのはいつか。

情けないまでの自堕落な生活ではあるが、「新婚旅行」という特別な時だという事で、浅いため息一つで自分を許す事にした。

「起きられるなら食事に行かないか?話したい事もある」

「うん、大丈夫。・・・話したい事?」

「あぁ、大した事では無いんだが。恭一はこういう事に拘ると思ってな」

「僕?・・・解った、準備するね」

フワリと笑って見せる三城は、けれどそれ以上言及しても今は何も言ってはくれないだろうと容易に想像が出来る。

三城とはそういう男だ。

こうと決めた事はよほどの事がない限り変えない、彼の芯の強さに惹かれる。

のろのろとベッドから降りた幸田は、スーツから着替える様子のない三城に習い、同じくスーツに着替えるべく寝室の隅に置いているスーツケースからワイシャツを漁った。

この旅行の間に増え続けた衣類が、ガラガラだったスーツケースの中を埋め尽くしている。

下着から順に身に着けて行くその間、三城は何をするでもなくただ幸田を見つめていた。

そんなにも見つめられると照れてしまう。

三城の視線が痛くて背を向けていたが、チラリと彼を盗み見るとその表情は───何故かとても真剣だった。

「・・・・」

冷やかしたようなニヤリとした笑みを浮かべているとばかり思っていたのに。

考え事をしているような顔で、仕事をしているならともかく幸田に向けられるには珍しいものだ。

「・・出来たか?」

「あ、はい。お待たせしました」

「行くか」

緩めていたネクタイをさっと直した三城はスマートな仕草で立ち上がった。

彼はもう柔らかい表情に戻っている。

見慣れた、いつもの三城だ。

三城の手が自然と幸田の腰に伸ばされ、優しい手つきで引き寄せられると当たり前のようにそこに落ち着いた。

「ニューヨーク最後の夜だ。楽しもう」

「はい」

最後の夜。

様々な事があった、幸せな旅行。

唇の中で繰り返した幸田は、嬉しげに目を細めたのだった。




 
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