新婚旅行リベンジ・編・4



毎日車で通勤をしているというのに、三城の愛車は汚れ一つないかのように綺麗に光っている。

幸田は結局何処に向かうのかと聞けないまま、専用と言って語弊は無いだろう助手席に腰を沈めていた。

もちろん着替える事もせずそのままだ。

いつもの事とはいえ、メタリックブルーで左ハンドルのBMWにオーダースーツ姿の三城は車のCMモデルのようにピッタリと嵌り過ぎているというのに、Tシャツにジーンズの幸田は不釣合いな気がしてならない。

特に二人が並んだ時の落差と言ったら、知らない人が見れば眉を潜めるだろう。

とは言え、隣を見てハンドルを握る三城がラフなスタイルだとどこか違和感があるかもしれない。

そんな事を思いながら見つめた三城は、前方を見つめる姿が気だるげにも映るがそれもまた格好良く、何度と無く見た横顔だというのにいまだに見惚れてしまった。

「どうした?」

車が信号待ちで停車すると、幸田の視線に気がついたのか三城が視線を寄こし目を細めてフワリと微笑んだ。

三城の微笑みは甘く、胸がドキリと鳴ってしまう。

誰にでもこんな表情を見せるのだろうか。

だとすれば余り嬉しくは無い。

「いえっ」

まさか「見惚れていた」など言えるはずもなく(三城ならばサラリと言ってのけるだろうが)幸田は僅かに頬を染めて首を振った。

「そうか?ならいいが。」

信号が青に変わり、スッと滑るように車が動き始める。

会話も無くラジオも音楽もかかっていない静まり返った車内の空気が重苦しかった訳ではないが、どこか寂しくなった幸田が助手席と運転席の間に手を置いてみると、すぐに三城の手がそれを包んだ。

「・・・・」

手の甲が温かくなり、撫で上げられればゾクリと背が震えた。

いつのまにか指も三城に絡めとられていて、複雑に組み合わされた手は容易には離れないだろう。

「何が食べたい?」

唐突に口を開く三城に、幸田は顔を前に向けたまま答える。

僅かに頬が赤いのは、光の加減という事にしていてくれるだろうか。

「そうですね・・・・」

時間的には昼食と言えど幸田にとっては本日一食目の食事で、モーニングのような軽い物を食べたいとは思わなかったが、揚げ物のような重い物を食べるほど身体が起ききってもいない。

「春海さんは何がいいですか?・・・っていうか、何処に向かっているんですか?」

何処からしらの目的地があると思っていたのに。

そうでなければたかだか昼食を食べに遠くまで行かないと考えていたが、こんな質問をするというのはそうではなく闇雲に車を走らせているのだろうか。

合理主義の三城には珍しい事だが、これもドライブの一環と思えば(幸田は元からそのつもりだが)楽しいのかもしれない。

「あぁ、この後行きたい所があってな。その方面に沿って走ってるんだ。」

「行きたいところ、ですか?」

あまり良い予感がしないのは何故だろうか。

隣の三城がスーツだからか、それともこの流れに覚えがあるからだろうか。

無意識に眉を潜める幸田を知ってか知らずか、三城は何でもない口調で続けた。

「あぁ、ちょっとな。そんな事よりも、まだ時間的に余裕があるから食べたい物があるから何処へでも行くぞ?」

「僕は特にコレっていうのはないんですけど・・・あんまり重たいのは嫌っていうくらいでしょうか。」

「そうか。だったらイタリアンはどうだ。パスタならいろいろあるし食べやすいだろう。この先に上手い店もある。」

「そうですね。パスタがいいです。」

納得したように幸田は頷き、ニコリと微笑んだ。

麺類は胃に良さそうだが、それならうどんだろうが蕎麦だろうがなんだって良かったが、三城が勧める店があるならそこが一番良い。

幸田にとっての目的地はそのイタリアン屋さんであるまま、「お腹空きましたね」と車窓の風景を眺めたのだった。




  
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