新婚旅行リベンジ・編・8



さすがファーストクラスのシートの座り心地は素晴らしく、地上を離れていくらもしないうちに幸田は眠りに堕ちていった。


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―――夢を、見た。

やけにリアルな風景を映す夢だ。

見た事があるような無いようなそんな場所に、幸田は三城とそしてもう一人の男と一緒に居る。

懐かしい面差しだ。

何を話しているかはわからないがとにかく3人は楽しげで───温泉に浸かっていた。

とても幸せな気分で、これがずっと続けばいいとさえ感じる。

なのに。

幸田がふと男に手を伸ばし触れようとした瞬間―――男は、温泉の中にあぶくとなって消えてしまった。

男の最後の表情がどんな物だったかは、覚えていない。

だというのに、幸田は三城と「仕方ないね」と笑いあっている。

そんな、夢だった―――


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「っ・・・!」

突如覚醒した幸田は、息を荒げじっとりと寝汗をかいていたし、心臓は早鐘のようにドクドクと打ち鳴らされており痛いぐらいだった。

「ハッ・・・ッ・・ハァハァ・・・」

見たばかりの夢の内容がグルグルと頭の中を駆け巡ったけれど、瞬きをする毎に覚えていたはずの内容は記憶から薄れてゆく。

ただ胸が締め付けられるようで、息苦しい。

まるでもの悲しさだけが感情を支配しているようだ。

「・・・澤野、先生・・・」

すでに夢の内容などほとんど覚えてはいない。

けれど、自分と三城と一緒に居た男がかつての同僚・澤野である事を忘れはしなかった。

「新婚旅行・・・か。」

そのフレーズをどこかで耳にするたびに、澤野を思い出さずにはいられない。

澤野の悲惨な死は、二人の───三城と幸田の新婚旅行先で起こったからだ。

それから数ヶ月。

三城は新婚旅行をやり直そうとしているのだろうか。

まだ鼓動の収まりきらない胸を片手で押さえながら首を横に向けると、三城が静かな寝息を立てて眠っていた。

たおやかに伏せられた瞼は頬にまつげの長い影を落とし、唇はやわらかく結ばれている。

静かに眠る姿はまるで彫刻か何かのようで、つい視線を奪われてしまい、見つめればドキッとしてしまった。

「春海さん・・・」

思慮深い彼が何を考えているのか解らない。

ただ、幸田の事をとても大切に考えてくれているという事実だけは理解している。

三城の指先がピクリと震えた。

───その手に触れたい。

頬に唇を添えたくて、もっと深い部分にも・・・・

「楽しい旅行になるよな。」

三城が考えた旅行だ。

きっと完璧なプランが用意されているのだろう。

「早く着かないかな。」

機内に設置されている時計を見ると離陸から到着時刻までちょうど半分が過ぎていた。

一般的な美人の客室乗務員がドリンクのサービスにやってくる。

アイスコーヒーを頼んだ幸田は落ち着きを取り戻した微笑を称えて見せたのだった。




 
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