新婚旅行リベンジ・編・9



三度の食事は全て三城と同じ物を選んだ。

肉と魚の他にも種類があるのかそれとも朝食のような軽いものがあるのか、よくは解らなかったがとりあえず慣れている三城に任せるのが一番だろう。

客室乗務員が色々と───たぶんサイドメニューか何かを尋ねてきていたが、三城は面倒そうに「アレとコレとソレで」と言い捨て追い払っていた。

そうして出てきた料理はどれも幸田の口に合い至極旨かった。

「美味しいですね。」

頬を綻ばせる幸田に、けどれ三城は曖昧な笑みを向けた。

三城にとってみればどれも食べ飽きたものなのかもしれない。

機内食などどれぐらいの周期で変更があるかは解らないが、考えてみれば三城は月に何度も利用しているのだから今更珍しく無いだろう。

(いくら美味しくたって、飽きてしまうもんなんだろうな。)

幸田はローストビーフが刺さったフォークを口に運ぶ。

柔らかさと肉汁とソースの味わいが何とも言えず、ボキャブラリーがもっと多ければ他にも表しようがあっただろうが、相変わらず幸田の口からは「旨い」しか出てこない。

アルコールの種類も豊富らしく、それもまた選びきれなかったので三城が選んだ物を注いでもらった。

「春海さんも飲むんですか?」

「あぁ?」

何か問題でもあるのか、とばかりに三城は首を傾げた。

「着いたらお仕事じゃないんですか?」

「いや、今回は違う。到着は夜8時くらいだからな。微妙な時間だが、今日は直接ホテルに向かうよ。」

飲むのだとアピールするように、三城はグラスに注がれた赤い液体を煽ってみせた。

三城にとっては「夜8時」は「微妙」な時間であって、仕事をする時間としては許容範囲内なのかと驚いてしまう。

日本ではいざしらず、長時間のフライトの後でも関係ないのだろうか。

「恭一は余り飲むなよ。酔われても困る。」

「そうですね、じゃぁこの一杯だけにしておきます。」

確かに、幸田はアルコールに強い方ではない。

好きだし、三城と付き合い始めてからは一人暮らしの自宅にもアルコールを常備するようにはなっていたが、それでも沢山飲める訳ではない。

三城に言わせれば幸田の酔い方は「たちが悪い」らしく、外では控えるようにもしている。

そのうえ折角の旅行を二日酔いでなど過ごしたくもなく、幸田はグラスの中を空にすると大人しくそれを三城に返した。

「これも美味しかったです。すごいですね、ファーストクラス。」

「帰りも乗るのだから安心しろ。」

「帰りもですか。」

帰りをどうするかなんて考えもしなかったが、またここに乗れるのだと思うと無意識に頬が緩んだ。

それは少量のアルコールのせいだという事にしておいてもらいたい。

ヘラリと笑う幸田を見つめ、三城はため息を吐いた。

「つくづくお前は・・・」

「へ?なんですか?」

「いや、なんでもない。」

三城が幸田の頭をポンポンと叩いてみせた理由を、当の幸田は解らずにいたのだった。



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短い睡眠を繰り返し、食事を3度、その他にも間食を挟み、なんだかんだとしているうちに17時間はあっという間に過ぎていった。

時折三城はノートPCを開き何かをしていたようだが、その横顔が真剣だったので声をかけていない。

仕事であれプライベートであれ、邪魔をしたくはなかったからだ。

「見てみろ、もうアメリカ上空だ。」

促されるまま窓の外を見ると、小さくはあるがはっきりとアメリカの町並みや山々が望めた。

どこがどう、とは言えないが、こんなにも小さいというのにまるで日本と違って見えるのが不思議だ。

暫くすると、機内アナウンスが流れた。

『まもなく当機は着陸態勢に入ります。シートベルト着用の上、───』

「よかったな、気流の乱れも特になようだ。静かな着陸になると思うぞ。」

「へぇ・・・揺れないって事ですか?」

「あまり、揺れないって事だ。」

三城の言葉通りすんなりと、到着予定時間通りに三城と幸田の乗る機体は無事ニューヨーク・ジョン・F・ケネディ国際空港に到着したのだった。




 
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