三城×幸田・【番外編】・北原
新居へ行こう!・2


中層階でエレベーターを降りるとそこは広いホールになっていたが、他に通路は無く見渡した限りにある4つの玄関だけがこのフロアの全てだと知れた。

マンションの外観から考えると、一軒が恐ろしく広いのだろう。

オートロック式のマンションの為かどの住居にも表札は掛かっておらず、北原はルームナンバーを確認し目当ての部屋の前に行くとインターフォンを鳴らした。

最新型の高級タワーマンションだけあってセキュリティーは至極厳重で、エントランスに入る前にまずルームナンバーと暗証番号を押さなければならず、応答してくれた三城にロックを解除してもらっているので北原の到着は既に知られている。

その為インターフォンを鳴らすと間もなく扉が内側から開けられた事に驚きはしなかったが、三城が現れるとばかり思っていただけに顔を覗かせた人物───幸田を見て僅かに目を見開いた。

もちろん、幸田がこの家に居るだろう事も、時間から考えて在宅中だろう事も予想の範囲内ではあったが、まさかこんなにも早いタイミングで会うとは考えてもみなかったのだ。

「こんばんわ、いらっしゃいませ。すみません、春っ・・三城さんから中で待つように伝えてくれととの事なのですが、入って頂けますか?」

ジャケットを脱いだだけのスーツ姿の幸田は相変わらず美麗としか言いようのない面持ちをしており、どこまでも丁寧な口調と仕草で玄関扉を大きく開けると北原を中へ促した。

おそらく仕事から帰宅して間もないのだろう様子の幸田からは隠そうとしても疲れた表情は隠し切れず髪も僅かに乱れているのだが、その様すらもこの男にかかれば妖艶な艶を増させるエッセンスになってしまうのだろうか。

不必要なまでのフェロモンに当てられそうになり、北原は眉を潜めた。

決して意識的ではないのだろうがそんな幸田にも、そして理由は解らないが無性に自分にも苛立ちを覚えずにはいられない。

「そうですか。解りました、中で待たせて頂きます。」

小さく頭を下げた北原は幸田の支える扉を潜り玄関へと入った。

予想通り室内はとても広いようで、玄関からしてここがマンションかと疑ってしまいそうな程ゆったりとした造りだ。

足元の土間部分には三城と幸田の物だと思われる二足の革靴以外は出ておらず、シンプルに纏められたインテリアなどさながらモデルルームを思わせる。

以前の三城の家も男の一人暮らしとは思えないほど綺麗に整えられていたのだが、そこに幸田のセンスが加わったのか少し違った雰囲気を感じた。

二人の愛の巣だと強調するような物は一切無いというのに、何処か甘い印象を与えられてしまうのは先入観から入った偏見だろうか。

「どうぞ。」

玄関からガラス張りの仕切り扉を一枚隔てたリビングへ通された北原は、その広さに動揺を隠せなかった。

広い。

何せ広い、の一言だ。

呆然と立ち尽くしてしまったが、幸いな事に北原にソファーを進めてすぐにキッチンへ入っていった幸田には気づかれていないようだ。

北原は庶民ではあるが平均的な家庭よりも裕福な環境で育ったと思っている。

学友の中には自分よりも遥かに金銭面に恵まれた奴も居たし、そんな友人の家に行った事もあったが、ここまで広いリビングというものはTVでもなかなか見かけない。

現在住んでいる一人暮らしの家は悠々と、不自由に感じた事のない実家だってすっぽりと入ってしまうかもしれない、と言えばオーバーだろうか。

北原は入ってきた扉から近いと言えない場所にあるソファーに、進められるがまま座るとグルリと周囲を見渡した。

フローリングの床は磨き上げられており、黒と白をベースカラーにシックに纏められた家具やインテリアはとてもセンスが良く、隙の無い三城の住む家のイメージそのままだ。

見知った物は何もないが、何処となくこの部屋は以前の三城の家を感じさせる雰囲気に、妙に胸がざわつく。

言い表せない感情に、苛立ちも募る。

──コトッ

失礼に思われてしまいそうな程室内をマジマジと見てしまっていた北原の前に、いつの間にか現れた幸田がコーヒーカップをそっと置いた。

「おかまいなく。」

「いえ、僕も飲もうと思っていた所ですので。」

北原の前に置かれた物と色違いのカップを手にした幸田は、事も無げにニコリと笑んで見せた。

胸に宿った雑音が強くなる。

この男は何故そんな行動を取り、顔が出来るのか。

いっその事、こんな時間にいきなりやって来た北原に対し不機嫌な顔で文句をネチネチと言ってくる人ならば、どんなに救われる思いをしただろう。

崩れてしまいそうな表情を隠す様に、北原は「頂きます」と呟いてコーヒーカップを手にしたのだった。




*目次*