三城×幸田・【番外編】・北原
新居へ行こう!・4


ワーカホリックと言っても過言ではなかった三城のその傾向がやや薄れ始めたのは夏くらいからだっただろうか。

連日の残業や休日返上での業務が少なくなり、一体三城に何が起こったのかと思っていたのだが、その要因がこの男にあると理解したのは極最近の事だった。

「三城さんは、会社でちゃんと休憩を取っていますか?」

コーヒーカップをソサーに戻した幸田はおもむろに言葉を発した。

先の失言を挽回しようとしたのか、微妙な空気の流れる空間が耐えられなかったのかはわからないが、新たな話題を振ってくれたのは北原にとってもありがたい。

だというのに。

「さぁ・・。休憩時間、私は部長の執務室に居ませんので解りかねます。」

咄嗟に口を吐いたのは、やはりどうしょうもなく素っ気無い返答だった。

せっかく幸田が探した話題だというのに、それを理解まで出来ているというのに、北原のセリフはあまりにお粗末で、もっと他にあっただろうに何故そんな言い方しか出来ないのかと、内心大きなため息を吐いてしまう。

実際にはため息など吐けもせず、澄ました顔でコーヒーを啜る自分も嫌味だ。

これではダメだ、と数度目の想いが脳裏を過ぎり、北原は懸命に続く言葉を模索した。

「ですが・・・。私の知る限りでは、休憩時間も半分ほどは仕事に当てられているようです。昼食も、会社から出ず簡単に済ませられる事が多いみたいです。」

こうして思えば三城は休憩時間と言っても羽を伸ばす事も少なく、むしろ平社員・特にOL達の方が断然ランチだスイーツだと楽しんでいるように思える。

海外営業部とは名前の通り海外の営業所や会社とのやり取りがメインであるのだが、その相手が北米やヨーロッパの国々となると昼夜が逆転している事も珍しくない。

科学技術が進んだ今でも時差だけはどうしょうも無く、リアルタイムの会議となるとどちらかがその国に赴くか、もしくは時間を調整し電話対談になる。

メールでのやり取りで間に合う事はその担当者が行えば済む話だが、電話など直接対談しなければならない事柄は重要なものが多く、部の最高責任者である三城が担当するのだ。

結果、昼食が摂れない程度ならまだしも、大きな取引の終盤ともなると深夜も回ってから、こちらでは遅すぎる時間に相手側では早すぎる時間に・・・という事も稀にあった。

「そうなんですか。昼食だけでも摂ってくれているなら良かったです。」

明らかに安堵の表情へと変化した幸田はホッと息を吐き、再びカップを手にするとどこか諦めたような苦笑交じりの笑みを浮かべた。

幸田の職業を考えるに、毎日決められた時間どおりに仕事を行っているのだろうから、そうと出来ない場面は想像の範疇外なのかもしれない。

だとすれば、不規則な生活は心配なのだろう。

「三城さん、あんまり会社でのこと話してくれませんから。」

「そうなんですか。」

確かに三城は北原から見てもON・OFFをきっちりとつけるタイプに思え、業務に無関係なパートナーに愚痴や相談を持ちかけるとは思いがたい。

「あ、でも。北原さんと会ってから、というか空港で僕達に面識があると解った時から、少しは話をしてくれるようになったんですよ。」

「え?」

面識と言ってもちゃんと話をしたのは今日を含めて二度だけ。

空港での時に至っては会釈をした程度だろうに、三城にはそんな些細な仕草でも何かを見抜いたのだろうか。

やはり並大抵ではな洞察力に感服する。

「会社・・というか、部下の方のお話とかをたまに。北原さんの事も話してくれたりしますよ。まぁ、仕事の話は全然言ってくれないんですけどね。」

ハハッと笑う幸田の軽い笑い声も、先ほどのような乾いた感じはしない。

苦笑、とも諦めとも違う、どこか「しかたないな」と暖かく想っているような笑みが北原には眩しく映った。

「何を言われているのか怖いですね。」

北原もまた、つられたように微笑が零れる。

「変な話はありませんよ?愚痴とかも殆どないですし。そうですね、飲み会や会食がある時も、今までだったらそれだけだったんですけど、最近では何の名目であるのか、とかも言ってくれたり、とかですね。あと・・・次ぎの接待は何をしよう、とか・・・」

そんな事も話すのかと感心していると、つい話しに夢中になっていたのか、何時の間にやら書斎から出てきたのか、三城の声が二人の斜め後ろからかけられた。

「おい、余計な事を話すな。」

条件反射で振り返ると、そこにはシャツのボタンを数個外しネクタイを緩めた姿の三城が、怒っている訳ではないのだろうがどこか不機嫌そうな表情で立っていた。




*目次*