三城×幸田・それぞれの春・編・14



身体が酷く重い。

「鉛のような」とはこの事だろうだるさを全身に感じ、幸田はようやく目を覚ました。

カーテンを閉めていても窓からは太陽の光が差し込んでいる。

首だけを動かし壁にかけられた時計を見ると、今が正午前だと知れた。

幸田の唇から、諦めにも似たため息が漏れる。

今日は平日の水曜日の為、当然の事ながら三城は何時間も前に出社して居ないだろう。

「何やってるんだろ、僕。」

大切な話をしに来たというのに、肝心の話しは微塵も出来ずSEXに溺れていたなんて。

そのうえ、起きてみればベッドに居るのは自分だけ。

相手の三城は日常と同じように起床して家を出ているはずだ。

「情けない・・・」

幸田は深いため息を吐き、今は近くに居ない三城を想った。

確かに昨日はろくに挨拶すらさせてはもらえずに唇を塞ぐキスをされた。

だが一言「話がある」と言えば、三城だって(きっと)愛し合うのも程ほどに手加減をしてくれたかもしれない。

幸田は数度目のため息を吐いたが、それは深呼吸に変わった。

後悔しても何も始まらない。

終わった事は仕方が無いのだ。

「今夜こそは、ちゃんと話しをしよう。」

幸田は一人力強く頷くと、気合を入れて上半身を起した。

勢いをつけて起き上がったので視界がグラリと揺らぎ、昨日のアルコールが残っているのか頭痛もする。

出来る事ならもう一度ベッドに戻りたい。

だがそれではダメだと自分に言聞かせ、幸田はベッドから降りた。

辺りを見渡したが着て来たスーツは見当たらない。

そういえばと身体を見ると、見覚えのありすぎるバスローブを着ていた。

性交の後(と言うか途中から)眠ってしまった幸田のスーツを直したのもバスローブを着せてくれたのも誰あろう三城だ。

それは最近の恒例となった事だったのですぐに思い当たり、今更驚きもしなかったが、この習慣が始まった頃は心底仰天した。

普段の三城を見ている限り、他人の世話を焼くタイプには見えないからだ。

幸田は寝室に作り付けにされているクローゼットに歩み寄り扉を開けた。

両手を広げたほどの大きさのそれは幸田専用だ。

この家には大きなウォーク・イン・クローゼットがあり、それに比べると小さいこのクローゼットは申し訳程度にしか使われてなかったため、三城が幸田専用にすればいいと明け渡したのだ。

自宅に帰るよりもここに泊まる事が多くなった幸田は、スーツやネクタイ、下着などを数個づつ置いている。

他にも不要になった教材なども持ち帰るのが面倒でクローゼットの隅に置かれていたりもした。

予想通り、その中に着て来たスーツはあった。

幸田は安心してホッと息を吐き、スーツのポケットから目当ての携帯電話を取り出した。

一晩以上放置していた携帯の履歴を見ると、メールが3件入っている。

1件は三城で身体を心配する内容。

2件目は大石からの、昨日はお疲れ様、で3件目はただのメルマガだった。

幸田は三城から送られて来たたった一言のメールを何度も読み返し、頬が緩んだ。

こんな些細な事で幸せを感じるなんて、自分は単純だと思う。

今しがたまで感じていた倦怠感もまるで嘘のように消え去った。

幸田はもう一度時計を見て三城が昼休みだろう事を確認すると、律儀に電話をかけて良いかを尋ねるメールを打ったのだった。



 
*目次*