三城×幸田・それぞれの春・編・15



メールを送信してから数分と経たない内に、幸田の携帯電話が鳴った。

発信先を画面で確認しなくとも、着信メロディーから相手が三城であると知れる。

バスローブ姿のままベッドサイドに腰をかけていた幸田はビクンと肩を震わせ、縺れるような手つきで通話ボタンを押した。

来るか来るかと携帯をじっと眺めていた為、ワンコールが鳴り終わるよりも早い反応だ。

「はい、もしもしっ!」

通話ボタンを押してから携帯を耳に当て、言葉を発するまでは僅か数秒だっただろう。

あまりの速さ、そして幸田の弾む声が可笑しかったのか、受話器の向こう側からは三城の押し殺したような笑い声が聞こえてきた。

『クッ・・・ククッ』

「三城さん?」

『いや、悪い。』

三城得意の、「悪いと思っていないだろう」と言いたくなるような謝罪は返って来たものの、笑いは暫く止まらなかった。

幸田の頬は僅かに染まり、唇も無意識に尖らせてしまっている。

自分でも恥ずかしくなるような口調だっただけに、そっとしておいて欲しかったのだ。

「そんなに笑わなくても。」

『すまない。それで、用件はなんだ?』

ようやく笑い終わった三城は、とりわけ作ったような澄ました声で言った。

電話のスピーカーから直接耳の奥に届けられたその甘く低い声に、幸田の僅かな怒気など綺麗に流されてしまう。

「あ、すみませんこんな時間に。」

『かまわない。ちょうど昼休みだ。』

そうは言っても、三城の昼休みなど有って無いようなものだと幸田は知っていた。

海外相手の仕事故、時間は出来るだけ融通するのだと以前聞いている。

『それに、俺もお前に連絡をしようと思ってたんだ。』

「三城さんも?」

『あぁ。話したい事があってな。電話で話せる事じゃないんだ。今晩家に来るだろ?』

「え?」

幸田はうっかり携帯を取り落としてしまいそうになったが、しっかりと握りなおしながらも驚きに目を見張った。

『どうした?』

「僕も、です。僕も、三城さんと同じ事を言おうと思って。」

聡い三城の事だ。

皆まで言わずとも伝わったのか、暫しの沈黙の後、「そうか」とだけ呟いた。

だがその一言が、何処か硬かく感じたのは気のせいだろうか。

幸田は違和感を感じながらも、気づかないふりをして明るい声で言った。

「出来るだけ早く帰りますね。」

『あぁ、俺もそうするよ。でも、お前は無理するなよ。忙しいんだろ?』

「それはお互い様です。」

『そうか。』

三城がクスリと笑うと、それだけでフワリとした空気に変わる。

幸田の頬も自然と緩んだのだが、その時受話器の向こう、三城側からノック音が聞こえてきた。

『タイムオーバーらしい。』

三城はため息混じりあからさまに不機嫌そうに呟いた。

「いえ、忙しいのにごめんなさい。じゃぁ今晩。」

『お前がそんな事、謝るな。じゃぁな、──愛してる。』

不意打ちに思いもよらなかった一言は、いつも以上に強い衝撃となって幸田の耳に残った。

「え?僕もっ」

──ツーツー

幸田が言いきるよりも早く、無情にも通話は切れていた。

「三城さん、自分だけ言うなんてずるいです。」

回線の繋がっていない携帯電話を見つめながら、幸田は複雑そうに眉間に皺を寄せる。

だがその口調とは裏腹に、口角だけは隠せないほど嬉しげに笑んでいた。



 
*目次*