三城×幸田・それぞれの春・編・19



空になった弁当を脇に退け、新しく淹れ直した茶を飲みながら幸田はおもむろに口を開いた。

胸に抱えていたものを話し終えた幸田は、実に晴れやかな面持ちだ。

「ところで、三城さんの話しってなんですか?」

「え?」

「お昼に電話した時、三城さんも話があるって・・・」

「あぁ、大した事じゃない。この間秋人兄さんから連絡があってな。冬樹兄さんが恭一と4人で飲みたいと言っているらい。恭一は酒が飲めるのかと聞かれたから、嗜む程度に、と言っておいたぞ。」

一瞬、三城の言葉が上手く理解出来なかった。

幸田は仰天の余り湯飲みを取り落としそうになり、慌てて握りなおす。

口など放っておけばバカみたいに開いてしまいそうになるので、意識的に唇を結んだ。

「それは本当に僕もなんですか?」

「あぁ。だから恭一が酒を飲めるか聞いてきたんだろ。それを聞けと言ったのも冬樹兄さんだったらしい。」

三城の長兄・冬樹といえば、正月の顔合わせの時に二人の交際(便宜上、結婚だが)を猛烈に反対・批判したのだ。

男同士に理解出来ないというのが世間的評価である事を知っていても、パートナーの兄弟に認めてもらえないのは辛い。

その為、その日からあまり時間が経っていないというのに二人をそろって飲みに誘うなど、どのような心境の変化があったのか。

「そうですか。良かったですね」

湯飲みを握ったままその手をテーブルに置き、幸田はニコリと笑った。

まるで自分の事のように嬉しげに、幸せそうに目を細める。

冬樹が兄弟3人に加え幸田も誘うという事は、快諾してくれたとまでは行かなくても、少しは認めてくれたのかもしれない。

そう思うと顔を綻ばせずにいられなかった。

二十歳の時に天涯孤独の身となった幸田にとって、家族や兄弟とは特別な物なのだ。

「お前はいいのか?」

「何がですか?」

「兄さん達と飲む事だ」

まるで三城の真意を測りかねているかのように、幸田はキョトンとして頷いた。

「?・・・・はい。別に、嫌も何もないですよ?そりゃ緊張はしますけど、そんな事言ってたらこの先ずっと・・・」

この先、三城と生きていく未来が存在するなら、すなわち三城の家族とも関わるという事だ。

日程や時間にもよるが、それ以外で断る理由など幸田には想像出来なかった。

世の中には嫁姑問題に次ぎ小舅なる言葉があるのだが、自分に当てはめる気はないようだ。

それは男同士、というよりは全く頭に無いからだろう。

鼻から相手の悪意を考えない、幸田の美徳の一つと言えた。

「お前らしいな。」

三城はわざとらしいため息を吐いて見せたが、幸田にはその意味もまた解らないでいる。

「やだな、三城さん。そんな、僕が断る方がいいみたいな。」

「そうは言っていないが、まぁいい。それはそうと、俺はまだ時間的余裕が取れそうにないから、詳しい日時は決めていない。」

「なんだ、そうなんですか。」

すでに会う日の事を考えていただけに拍子抜けした。

あの実兄二人と会うのだから、身なりからして相当に気を使わなければならないだろう、と三城からプレゼントされたスーツのどれが良いかと思い描いていたのだ。

「まだ忙しいのが続くんですか?」

「・・・あぁ」

三城の面持ちが一瞬曇ったように見えたのは気のせいだろうか。

「三城さん?」

淀んだ空気が流れかけたのも束の間、幸田の携帯のバイブが震えた事でその場は普段と変わりないものに一変したのだった。



 
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