三城×幸田・それぞれの春・編・21



その後の展開は速く、話しはトントン拍子に進んで行った。

幸田が三城に報告し大石に連絡した翌々日に面接を行い、その次ぎの日である本日、学校側から正式に採用の連絡があったのだ。

「はい、はい、よろしくお願いいたします。はい、失礼します。」

携帯を持つ手がじっとりと汗ばんでいる。

相手に見えないと解っていても、つい頭をぺこぺこと下げながら話してしまうのは日本人の特徴だろう。

幸田は通話を終えると、長い息を吐いた。

「フーーッ。」

目上の人と電話で話しをする機会などあまりなく、表情が見えない分実際に会って会話をする何倍も疲れた。

三城ならばきっと、そんな事は微塵も考えないのだろう。

ましてや誰もいない壁に向かって頭を下げてしまう所なんて想像も出来ない。

愛しい人の事を思い、幸田は自然と頬が緩んだ。

あの転職を知らせた日から(正確には、前日も来ているので三城が帰国してから、なのだが)幸田はずっとこの三城家に居る。

自宅には帰っておらず、元々そんなつもりで家を空けたわけではない為、ゴミの腐敗などが少々心配ではあった。

思い返す限りでは危なそうな物はなかったが、万が一虫が大量に発生していたり異臭が漂っていてはご近所さんに迷惑だ。

昨日は休みだったので一旦自宅に帰ろうと思っていたのだが、なんだかんだと帰れずに終わってしまった。

「どうしようかな・・・」

時計を見上げると時刻は午後2時。

三城は当然のように仕事中だろう。

そして幸田も暫くしたら予備校に向かわなければならない。

三城の終業時間より早く幸田の始業時間が来る為電話は出来ないが、どうしても一番に知らせたかった。

メールというのも味気ない気はするが、仕方がないだろうか。

予備校には今日さっそく退職届けを出そうと思っているので、今を逃せば「三城に一番に知らせる」事が出来なくなるのだ。

気が早いと思いながらも、面接の好感触から昨日のうちに退職届を準備をしておいたのだ。

『退職届を提出し「預かっておくよ」はドラマだけ』、だと誰かが言っていたが、今の予備校の状態ではすんなり受理してくれるか本当に不安だ。

「思い直せ」どころか、「辞めないでくれ」と頭まで下げられるのではないかと少々気が重い。

同僚も上司も当たりがよく、不満があった訳ではない為に無下に出来ないのだ。

とは言っても、幸田の意思が変わる事はなく、いつにない頑なさを貫こうと決心している。

今はそれよりも三城だ。

幸田は二つに折った携帯を見つめ逡巡した。

「そうだ、留守番電話に入れよう!」

幸田は名案とばかりに、その場に誰かが居たならば目を引きつけてならないだろう笑顔で一人頷いたのだった。



 
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