三城×幸田・それぞれの春・編・22



短縮0番を押し、続いて通話ボタンを押そうとしたちょうどその時──

──ピリリリピピピ

「うっわっ!」

幸田は画面の名前も確認せずに咄嗟に通話ボタンを押してしまった。

条件反射というやつだ。

「もしもしっ」

『クックク』

スピーカーの向こうから聞こえてくるのは、聞き慣れた、そして喉の奥でかみ殺したような三城の笑い声だった。

「・・・三城さん?」

『お前はいつも電話に出るのが早いな。』

「そんな事・・・たまたまです。」

携帯依存症のように一日中携帯を握り締めている訳ではないのだ。

三城からの着信はいつも、偶然にしてもタイミングが良すぎる。

幸田はつい辺りをキョロキョロと見渡してしまった。

監視カメラでもあるんじゃないのだろうか。

「・・・、・」

『どうした?』

不信そうな三城の声に、幸田はビクリと肩を震わせた。

「監視カメラを探していました。」なんて言える訳がない。

嘘をついているでもないのに、上擦ってしまう声を必死に抑える。

「いえっあの、僕も今三城さんに電話・・っていうか留守電を入れようと思っていたので驚いて。」

『留守電?』

「はい、だって三城さんが仕事中に電話に出るとも思わなかったから。」

三城は携帯を二つ所有しており、仕事中はプライベートの携帯はマナーモードにしていてメールの送受信がせいぜいだ。

電源を切りっぱなしにしている時もあり、そのメールの返信も期待半分で居る方がよい。

幸田も緊急の用事がある時は仕事用の携帯に連絡をするように言われているが、今までそんな機会は一度もなかった。

『なるほどな。それで用件は何だったんだ?』

「高校から連絡があって、採用、されました。」

『そうか、良かったな。』

弾んだような声、とはこのような物だろうかというほど、三城の声は嬉しげだった。

まるで自分の事のように思ってくれていると思うと、幸田は幸福感で満たされる。

「これで昨日書いた退職届けも無駄にならずにすみました。」

幸田は照れ隠しのように苦笑を浮かべてみせた。

この退職届けも三城のアドバイスを元に書いたのだ。

三城自身はそんな物を書いた経験はないだろうに、驚かされるほどの博識ぶりだ。

『良かったな、おめでとう。』

三城はしんみりとした声でもう一度、かみ締めるように言った。

それは幸田の胸に深く染み込んだのだった。



 
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