三城×幸田・それぞれの春・編・23



「三城さんも何かあったんですか?こんな時間にワザワザ。」

『・・・それがな。』

元々電話をかけて来たのは三城だというのに、なかなか本題を口にはせず低く唸るような声で言い渋った。

何事も無駄を省く事を好む三城にしては、勤務中の電話でこのような事は初めてかもしれない。

幸田は怪訝そうに首を捻った。

「三城さん?」

『実は、今晩のフライトでアメリカに立つ事になった。期間は解らない。短くて5日、長ければ半月は帰って来れない。』

「っ!」

時間が止まった感覚に陥った・・・と言えば大げさだろうか。

幸田は大きな衝撃を受け、固まってしまった。

「また出張か」という想いを、どうしても拭い去る事ができない。

つい数日、5日前に帰って来たばかりじゃないか。

それなのに、その何倍もの期間また会えなくなるなんて。

「・・・そう、なんですか。」

『祝ってやれなくて、すまない。』

「いいんです、そんな事。お仕事じゃ仕方が無いです。」

仕方が無い仕方が無い、と頭の中で反芻しながら、殊更明るい声で感情を隠した幸田は、なんでもないとばかりに言った。

表情など見えないと解っている電話で、笑顔を張り付かせる。

けれど、瞳は、笑っているのだろうか。

「仕事と僕とどっちが大切なんですか?」なんてバカげた事を口にしたいわけじゃない。

けれど、寂しい。

幸福だと思っていた感情が、一気にしぼんでいく。

ただ一緒に過ごせればそれでよかった。

けれど今の幸田には、それを口にする事すら我侭なのだろう。

「荷物は・・・」

『荷物も取りに帰る時間が無くてな。向こうで何とかするよ。』

「持って行きましょうか?」と言いかけた言葉を、幸田は寸前の所で飲み込んだ。

自分が三城の荷物を持って行ったとして、多忙な三城に直接渡せる保障はない。

だがあの三城の事だ。

どんなに忙しくても幸田と会おうとするだろうし、そんな無理をさせたくなかった。

その上、もし誰かに荷物を預けたとして二人の関係を疑われては困る。

何にしても、余計な事になりそうだ。

「そうですか。解りました。気をつけてくださいね。」

『あぁ。恭一、もし・・・いや、なんでもない。お前も気をつけろよ。』

「?はい。」

いつもの三城と何かが違う。

根拠の無い想いが、幸田の中に生まれた。

ただ疲れているだけだろうか。

それとも、三城も自分と離れる事を寂しく思ってくれているだけだろうか。

違和感が膨れ上がっていく中、自分が何に気をつけるべきなのか、首を捻りながらも素直に頷く幸田だった。



 
*目次*