三城×幸田・それぞれの春・編・27



つまみや一品料理が乗っていた皿も殆どが空になり、残骸のように欠片が残っているだけだ。

数杯目のビールを片手に、大石は上機嫌で声を上げた。

「本当に良かったな、俺は嬉しい。」

何回目か解らない同じ言葉をまた繰り返し、グイッとジョッキを煽る。

多少声を張り上げた所で、ガヤガヤとした店内で目立つ事はない。

「ありがとうございます。先輩のおかげです。」

その度に繰り返されている決められたような返答を返し、幸田はニコリと笑った。

惰性になっている訳ではない。

酔いすぎている訳でもないだろう。

ただ互いに感慨に耽っているだけだ。

だが、それが大石の方がやや深く見受けられるのが幸田には不思議に映っている。

自分と働く事、もしくは自分の夢が叶った事をそんなにも喜んでくれているのだろうか。

最初こそ首を捻りはしたが、大石の思考なんて逡巡したところで解らないだろうと、考えるのを止めた。

「祝ってやる」と言われたものの、それを名目に飲みたかったっだけだろうと思っていたのに。

実際は本当に言葉通り、幸田を祝うつもりらしい。

予備校であの雰囲気を味わった後故に、嬉しさよりも調子が狂うと言ったのが幸田の本音だった。

「俺はてっきり、今日は彼女と祝うかと思ってたからよ。」

大石はジョッキに残っていたビールを飲み干すと、ダンッとそれをテーブルに置いた。

「え?」

「いや、就職記念の祝い。普通だったら彼女とかと会うかなって。」

幸田があまりに呆然とした顔をするので、大石も虚を疲れたように幸田を見つめ返した。

「彼女、ですか。」

良く考えると(考えないでも、だろうが)祝い事があれば恋人と過ごすのは極普通の流れだ。

現に幸田も、三城が出張中でさえなければ今ここに居ないだろう。

「お前ほどにもなったらいるだろ?」

「居ませんよ・・・」

幸田は作った様なあからさまなため息を吐いて、眉を寄せてみせた。

こんなやりとりは慣れている。

今更何て事は無く、口先だけの嘘なんて簡単だ。

少なくとも自分ではそう思っていた。

「居ないのか?」

「出会いが、ほら・・・」

「だよなぁ。」

「先輩もフリーなんですか?」

「まぁな。学校なんていわば閉鎖的だろ?会うのは生徒と同僚。いいとこ保護者だ。どれにも手を出す訳には、なぁ?」

「わかります。」

「一番可能性があるのは同僚なんだろうけど、この年ともなると別れたらって考えちまう。」

「若さの勢いって物はなくなりましたね。」

幸田は同調するように苦笑してみせた。

「だよな。って事で、今日は男二人、もう一軒行くか!」

そう言うと、大石は勢いよく立ち上がった。

「えぇ!?先輩?」

何が「って事」なのか理解が追いつかない。

幸田が目を白黒させているうちに、大石はさっさとコートを着込むと伝票を手にしていた。

「行くぞ。」

幸田の意見も制止も聞くつもりはないのか、大石はさっさとレジに向かって歩いて行ったのだった。



 
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