三城×幸田・それぞれの春・編・31



それからの記憶は酷く曖昧だった。

大石に付き添われタクシーに乗り自宅まで帰って来たとは思うのだが、はっきりとは覚えていない。

「っ・・・」

気がつくと幸田は自宅のベッドの上で、下着姿で横たわっていた。

ハッとして勢い良く上半身を起こしたが、身体はだるく、そのうえ反動で酷く頭痛がした。

明らかな二日酔いだ。

それほど飲んだつもりは無いのだか、とふと視線をやったローテーブルの上には缶ビールの空き缶が数本転がっている。

「・・・」

なんたる実態。

酔って帰り、更に飲むなど愚の骨頂。

幸田は立てた膝に肘をついてうなだれた。

情けなさ過ぎる。

酒に逃げて事故に遭った事もあるというのに(結果的に三城の出会いとなったのだが)、その癖は治らないらしい。

「はぁ…」

再びベッドに戻ってしまいそうな所を必死にこらえ、のそりと起き上がった。

重い身体を引きずり台所に向かうと、冷蔵庫から取り出したミネラルウォーターのペットボトルをそのまま口に付ける。

冷たい水が喉を通り抜けていく。

開封したばかりの500mlペットボトルの半分以上を飲むと、先ほどよりは意識がはっきりとした。

シャワーでも浴びれば仕事に行くにも支障はないだろう。

行きたくなくても出社しなくてはならない。

それが社会人というものだ。

「っ・・・はぁ。」

頭痛を抱えながらも一息吐くと、次に思い出されるのは、言わずもがな昨日の出来事の数々だ。

何処までが現実で、何処からが夢かわからない。

三城が居たのは事実だろうか。

見知らぬ男とホテルに入って行った・・・と言えば聞こえは悪いが、幸田の見た事が夢でないなら、そういう事だ。

部下だとは思うが、確証は無い。

「綺麗な・・・人だったな」

無意識に唇から漏れた呟きは、虚しく幸田の耳にだけ届いた。

三城は常々「俺はゲイでもバイでもない。お前意外の男など、抱くのも抱かれるのもごめんだ。」と言ってはいる。

だが、あんなに綺麗な人なら、あるいは・・・

「三城さんに限って・・・」

信じたい。

信じるしかない。

何かを否定するように首を振った幸田は、手にしたままのペットボトルを冷蔵庫に戻すと、ふと目に入った携帯を手にした。

どういう経路でそうなったのかは、自宅でビールを飲んだ事も覚えていない幸田が覚えている訳も無いのだが、携帯はインスタントやレトルトの食品の買い溜めを置いている棚に収まっていた。

携帯の着信を知らせるランプはひっきりなしに光っている。

広げてみると、着信3件、メールに至っては12件。

時計を見れば午後1時。

軽く12時間以上放置していたのなら頷ける件数だ。

「どうせメルマガとかばっかりだろ・・・」

とりあえず見た着信履歴は、3件全てが三城の物で驚いた。

時間を確認すると全てが22時前後。

急いでメールも確認すると、予想通りメルマガが6件に大石からが1件。

そして、三城からが5件。

「・・・」

一つ一つ、読んでいく。

そのどれもが短文だった。

総合すると、───出立は明日の早朝になった。今日は新宿のホテルに泊まるが、恭一も来ないか?───。

「・・・気づかなかった。」

昨日は電車に乗るときにマナーモードにして、大石と会ってからは一度も携帯を確認しなかった。

その上、三城に大石と会う旨も伝えていなかった。

過ぎ去った事と開き直れず、後悔が胸に巣くう。

三城からのメールは全て昨日のもの。

あのすれ違いの後は、一件も入ってはいなかった。



 
*目次*