三城×幸田・それぞれの春・編・32



かれこれ数十分。

幸田は誰も居ない部屋で一人、正座をして膝の前に置いた携帯を見つめていた。

これからシャワーを浴びて仕事に行かなければならない。

永遠にこうしていられるはずなどないのだ。

電化製品のモーター音と時計の秒針の音が、幸田を焦らせる。

「・・・どうしよう。」

三城に連絡を入れるべきか否か。

いや、『連絡をするかしないか』ならば、するに越した事はないというのはしっかりと解っている。

正確に言うならば、『なんと連絡を入れるべきか』だろう。

向こう時間は夜の8時くらいだろうから、時間的には問題はない。

だが一体何を話せば良いのか上手く纏める事が出来ず、電話は愚かメール一本打てずに刻々と時間を費やしているのだ。

言いたい事は沢山あるはずなのに、そのどれ一つとして明白な言葉には出来なかった。

脳裏に過ぎる三城の冷たい面持ち。

そして、若く綺麗なあの男。

自分と大石。

あの時も酔ってはいたが、その後に更に飲んだ為、何が真実で何が夢かも判断がつかなくなっているのも事実だ。

全て夢であってくれるなら嬉しい。

けれどそうだと思えるほど楽観的にはなれはしない。

笑おうとした頬が、無理に引きつりあがる。

いっその事連絡をするのは諦めよう、三城からの連絡を待とう、と逃げの姿勢になった時。

──ピリリリリ

「っ!」

今まで微動だにしなかった携帯が、着信メロディーを奏でた。

ドクンっと、まるで殴られたかのように激しく胸の震えた。

一瞬した後、幸田は咄嗟に携帯を持ち上げると発信者名を確認する事もなく急いで通話ボタンを押す。

「もしもしっ!」

声は弾みながら震えた。

この先に居る人物を疑いもせず。

返答があるまでの数秒が、きっとコンマ数秒がバカみたいに長く感じられる。

「・・・幸田?どうかしたのか?」

だがスピーカーから聞こえて来た声は、大石のものだった。

「・・・・・」

急激な感情の高ぶりは、それ以上の速度で落下していく。

真っ白になった思考で、瞼の奥だけは痛いほどに熱くなった。



 
*目次*