三城×幸田・それぞれの春・編・34



寒空の下立ち話をする理由も無いだろうと、幸田とその男は予備校近くにある24時間営業のファミリーレストランへと場所を移した。

全国チェーンのメジャーな店ではあるが、夕食時はとうに過ぎている事もあり店内にはちらほらと若者の姿があるばかりだ。

中にはノートや教材を広げている者も居たが、幸いその中に幸田の見知った顔は無く、自然と安堵の息が漏れる。

この男が何の話をするつもりかは知らないが、三城の事であるのは想像に難くなく、そうなれば誰に聞かれても大丈夫だとは言いたがかった。

やる気のなさそうな店員に案内され、二人は隣前後が空きのボックス席に腰を落ち着けた。

「ホットコーヒー二つ。」

男は幸田の意見も聞かずにそうオーダーし店員を追い払うと、間を置かずスマートな仕草で名刺を差し出した。

「改めまして、北原【きたはら】と申します。」

「ありがとうございます。すみません、名刺を切らせていまして。」

「お構いなく。」

「幸田恭一です。」

幸田は名刺を両手で受け取ると、申し訳なさそうに頭を下げた。

職業柄名刺は特に必要ないのだが、こういった時に恥をかく。

改めなければと内心自身に叱咤しながら受け取った名刺に目を落とすと、そこには北原のフルネームと三城の勤める会社名と社章、それに「部長補佐」の役職名が書かれていた。

「C&G・・食品営業部長補佐・・」

やはり三城の、それも直属の部下らしい。

以前「秘書のように使っている男がいる」らしい事を聞いていたが、どうやら北原の事のようだ。

C&Gカンパニーは外資系の総合商社で、三城はそこの食品営業部長だった。

世界に誇るC&Gは各国に支社を持つ大きな企業だ。

社名こそ幸田の記憶に薄かったが、商品を見せられれば知っている物はいくつもあった。

そんな大会社の、いくら日本支部とはいえ部長職に収まるには三城はいささか若いように思える。

だが年功序列という考えが強い日本とは違い海外、特にアメリカなどでは実力主義、若くしてトップに立つ者も多いらしい。

とは言え、「部長補佐」というなかなかの地位に居る北原は、そんな三城よりももっと若いだろう。

幸田は失礼だと考えるよりも先に、北原の顔をマジマジと見てしまった。

明るい場所で改めて見ても、綺麗だと思った第一印象は変わらず、より一層の端整さと知的さも伝わってくる。

笑みの無い表情からは真面目さがひしひしと感じられた。

さぞ女性にもてるだろうに、どんな人に声をかけられても冷たく一蹴するのだろうな、と幸田は節介にそう思った。

若くて、綺麗で、仕事も出来そうで。

自分は北原に敵うモノは何一つ無いのではないだろうか。

比べる事ではないと思いながらも、そう感じずには居られない。

「三城さんの部下の方ですか?そんな方が、僕に何の用でしょう?」

幸田は顔を上げると、ニコリと形良く微笑んで見せた。



 
*目次*