三城×幸田・それぞれの春・編・39




北原と会った日から更に一週間以上が経っていたが、その間もやはり幸田は三城に連絡を取れずにいた。

もちろん三城からも何のアクションもない。

あったとすればこんなにも辟易としていないだろう。

これで二人の関係が終わるとは恐ろしくて考えたくもないが、音信不通の日数が増えるとそれに比例し更に連絡が取り辛くなっているのも事実で、「自然消滅」という言葉が不意に頭を過ぎる。

それでも「仕事が忙しい」と自分自身に言い訳をして現状から目を背けてはいたが、そろそろそうも言っていられなくなっていた。

受験戦争の終息も確実に近づき、予備校に通う3年生と浪人生の数は格段に減っていた為、幸田は平常どおり自分の受け持ちのクラスにだけかかれば良くなっていたからだ。

そのクラスも進路変更や学校の留年などで人数は減少傾向にあり、仕事量は確実に減っていた。

秋から徐々に始まり、年越しからピークが続いていた忙しさから解放されようとしている。

その日幸田は休日とあって、昼も夕方と呼んでいい時間まで眠っていた。

ここ暫くの休みは、予備校は休みでも転職の手続きや高校に出かけたりなどゆっくりと過ごせなかった。

溜まっていた疲労が押し寄せ、久しぶりに何も予定の無い休日となった本日は惰眠を貪っていたのだ。

だというのに、不愉快な程何度も鳴らされるインターフォンのベル音が鳴り響き、夢も見ないほど深く眠っていた幸田を覚醒に導いた。

──ピーンポーン・ピーンポーン

使用頻度が少なく、三城の家のそれとは明らかに違う、品の欠片も無い甲高いベル音。

「ん・・・」

幸田がボンヤリと目を覚まし、しっかりと状況の理解に至るまで約1分。

チャイムが鳴っており来客を告げている、と状況が理解出来ると、幸田は慌てて跳ね起き玄関に向かった。

起された不快さよりも、相手を待たせている事に申し訳なく思う辺り、なんとも幸田らしい。

Tシャツにジャージという姿だが、別段気にはしなかった。(もしもこの場に三城が居たなら怒声の一つも飛んでいただろうが。)

「はい、どちら様でしょうか?」

のぞき窓から相手を確認するなどしもせず、言いながら扉を開ける。

そこに立っていたのは宅配便業者のバイトらしい若い男だった。

男はあからさまに疲れと機嫌の悪さが現れている面持ちで名乗りもしない。

見れば解るだろうと思い込んでいるようだ。

「判子かサインお願いします。」

男はぶっきらぼうに言うと配達用紙を取り出しながら幸田に言った。

「はい、ちょっと待ってください。」

幸田は一旦扉を閉め踵を返すと、部屋に印鑑を取りに戻った。

どちらかといえば几帳面な性格だが、日々の忙しさで部屋は僅かに乱雑としている。

洗濯物やゴミの袋を脇に避けながら、貴重品を纏めている引き出しから印鑑を取り出した。

そういえばこの荷物は誰から何が来たのだろう。

宅配便を受け取る予定もなければ送ってくる相手も居ない。

そもそも、宅配便ならばあんなにインターフォンを鳴らし続けなくても不在者通知を置いて帰ればいいのに。

幸田は何処かふに落ちないモノを感じながらも玄関に戻った。

「お待たせしました。えっと、何処に?」

「ここっす。あと、これとこれにもお願いします。」

「えっ?」

男の手には配達用紙が何枚も握られていた。

その紙はどれも同じではあったが、見覚えの無いデザインだ。

よく見ると日本語でも無い。

何がそんなに届けられたのか、新手の押し売りか、と幸田は届けられた物を確認しようと身を乗り出し玄関の外を見ると、そこには大小様々な荷物が積まれていた。

郵便物自体に心当たりがないというのにこの量だ。

幸田はただそれらを観察しながら呆然と動けないでいる。

一抱えもあるほど大きな物から、片手で持てそうなサイズの物まで数えないと解らない量がそこに有った。

なるほど、これを持って二階のこの部屋に来たのなら、バイトの男は簡単には帰りたくないだろう。

エレベーターのないアパートで、これだけの荷物を運ぶには何往復か必要だったに違いない。

「なんだ・・これ」

幸田は独り言のつもりだったが、男はだるそうな口調で答えてくれた。

意外と律儀な男なのかもしれない。

「さぁ、品名は大体『衣類』か『壊れ物』っすよ。送り主は全部同じで・・・」

愕然とその荷物の山を見つめていた幸田は、男が送り主の名を読み上げる前にその人物が誰だか解った気がした。

送り主は全部同じと言っていた。

ならば、こんな事をする人物は一人しか思いつかなかった。



 
*目次*