三城×幸田・それぞれの春・編・4



大石と待ち合わせをしたのは、ありふれた居酒屋だった。

そこはかつて大石や他の学友と頻繁に訪れていた店で、洒落てもいなければ特別名物がある訳でもない。

店に思い入れがあった訳ではないが、会う場所を決める際に互いが自然と「あの店で」となった。

自宅からも予備校からも外れた場所にあるため幸田がそこを訪れるのは数年ぶりになる。

以前より少々近代的になった近辺を眺めながら幸田は店へと急いだ。

変わらない外観の店の暖簾を潜り、スライド式の扉を開け中に入るとカウンター数席とボックス数席の店内は半分ほど埋まっていた。

店内をぐるりと見渡す。

客の殆どはスーツ姿のサラリーマンだ。

私服の人も居るが、基本的に男ばかりである。

そんな中で類稀なる幸田の容姿は嫌がおうにも目立つのだが、いつものように幸田自身は気づいていない。

幸田の入店でざわつく客達をよそに、すぐにテーブル席の一つに大石の姿を確認すると、当の幸田はフワリと形容してよいだろう華やかな微笑みを浮かべた。

人目を引きつけて止まない笑みとはこの事だろう。

早足で駆け寄る幸田に、気が付いたらしい大石も片手を挙げてニッと笑ってみせる。

その表情は溌剌としており、約5年ぶりの再開だが相応に年を取ったという印象以外に変わった所は見受けられない。

今も昔も同じ、意志の強そうなキリリとした眉をしている。

幸田の美麗さとも三城の端麗さとも違う、正に日本男児の名に相応しい男前なのだ。

「お待たせしました。」

懐かしい相手を前に顔も綻ぶ幸田は、コートを脱ぐとそれを椅子にかけ、大石の向かいに座った。

今日は休日だがスーツを着用して来たのは、人と会うときは必ずスーツを着る三城の影響だろう。

「久しぶりだな。なんだ、お前また綺麗になったんじゃないのか?」

「止めてくださいよ、女性じゃあるまいし。」

冗談口調で言う大石に、幸田もわざとらしく顔を顰める。

思えば昔から大石は幸田を「美人」と呼んだ。

その度に周りも揃って幸田をからかったのを覚えている。

現在友人の少ない幸田の、楽しくも懐かしい思い出の一つだ。

テーブルにお絞りを持ってきた店員を

「とりあえずビールで」

と追い払い、改めて大石と向かい合う。

「はは、そんじょそこらの女なんかより数倍別嬪[べっぴん]のくせに良く言うよ」

「先輩に別嬪なんて言われても嬉しくないですよ。」

すぐに運ばれてきたビールを大石のグラスに当てながら幸田は面倒臭そうに言う。

そう言われて嫌な訳ではないのだが、嬉しいとも全く思わない。

可愛いや綺麗と言われて嬉しく思うのは、後にも先にも三城だけだろう。

他の誰から言われても、からかわれれいると思うか、本気だとしてもバカらしいという感想以外の何物も持てない。

「相変わらずだな。」

大石が自分を眩しい物を見るような目つきで見つめている事に、ビールを煽っていた幸田は気づかないのだった。



 
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