三城×幸田・それぞれの春・編・40




全ての配達用紙に印鑑を押した幸田は、宅配便業者のバイトの男とバケツリレーのような恰好でアパートの廊下に積まれていた荷物を全て部屋に入れた。

「ありがとうございました。」

口から出た感謝の言葉と共に玄関扉を閉めると、無意識にため息を漏れる。

玄関脇に積まれた箱の数は8つ。

この荷物の山は、予想通り三城からだった。

当然この事は何も聞かされていない。

嬉しい気持ち反面、何と言えない緊張が胸を強く打った。

三城は何を思ってこれらを自分に送りつけたのだろう。

荷物の殆どはダンボールだったが、街中でよく目にする茶色い物ではなく、見るからに高級感が溢れる真っ白な物や薄い水色の物ばかりだ。

そんな些細な事からも三城の嗜好や生活が窺い知れる気がする。

カッターナイフを持って来ると、逸る気持ちを抑えながら幸田はその中から見覚えのある大きさの箱を開けた。

ダンボールの中には更にダンボールが入っており、外の箱以上に上質だろう事はその箱にブランドロゴが刻まれていた事で察した。

店頭などで購入した際梱包して渡される箱だろう。

ダンボールの中から箱を取り出す。

僅かに重みのある箱を床に置き、それを開けた。

「・・・やっぱり」

外箱で想像はしていたが、中身は綺麗に包まれたスーツだった。

それは三城のお気に入りのブランドのもので、幸田も何着か贈られた事がある。

スーツは毎日のように着てはいるが、知識としては無知だ。

だがこれが上質な物である事は解る。

三つボタンでフロントベンツ。

袖口の飾りボタンにも洒落た遊び心が施されていた。

幸田の給料では到底手が出ない物である事も明白だ。

不思議とプレゼントを喜ぶ高揚感よりも、胸に潜む空虚の方が大きく感じられた。

嬉しいはずなのに、両手を挙げて喜べない何かがある。

けれど傍らに積まれたダンボールの数々を見ると、ボウっとしている訳にもいかず、幸田はスーツの入った箱を脇によけると他の箱を開けていった。

中から出てきたのは、革靴、ビジネスバック、ネクタイ数本、ワイシャツ数枚。

まるで新入社員グッズ一式のようだ。

そのどれもコレもが明らかに上質な物ばかりで、頭の中でそろばんを弾いてしまいそうなのを堪える。

こんな物も三城にしてみればポンと買ってしまえる程度なのだろうか。

最後に残ったのは極小さな箱だった。

それはビジネスバックが入っていた箱に一緒に入っていたが、あまりに小さいのでうっかり見落としてしまうところだった。

どれほど小さいかといえば、片手の手の平の上に乗り少しはみ出る程度。

大量のダンボールと梱包材に埋もれるように床に胡坐をかいて座った幸田はそれを手にした。

中に入っていたのは、黒い皮製の定期入れだ。

箱から定期入れを取り出し、二つ折りのそれを広げた。

「・・・あ」

そこには一枚の紙が挟まれていた。

手書きのそれは取り扱い説明書でも品質保証書でもない。

あまり見る機会は無いが、三城の字である事は間違いはなかった。

震える手でそれを取り上げる。

『就職おめでとう。あの日祝ってやれなくてすまなかった。物で誤魔化すつもりではないが、気持ちを伝えたくて贈り物を選んでいたら一つに決める事が出来なかったので、全部貰ってやってくれ。  夢を叶えた先に待っている現実は楽しいだけではない。だが共に乗り越えていきたい。─三城春海』

幸田は何度もその文を目で追った。

薄い紙を力を込めて握りすぎて少し皺が出来た。

三城の想いはここにあるのか。

「共に乗り越えて・・・か。」

頬を熱い物が伝っていく。

理由も解らないし、この感情を一言で表す事はできない。

だが胸は高鳴り、締め付けられる。

「三城さん、今でもそう思ってくれていますか?」

ならば何故、三城は幸田に話さないのだろう。

自分自身に問いただすような呟きを幸田は唇を動かさずに呟いたのだった。



 
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