三城×幸田・それぞれの春・編・43



平日昼間の成田空港は、不況の時代もあってかどこか閑散としていた。

広いロビーを大きな荷物を抱えた人たちがパラパラと行きかう。

三城の見送りや出迎えも、これまでタイミングが合わず一度も行った事は無く、空港になど滅多に来る事のない幸田は珍しげに辺りを見渡した。

真上を向かないと見えないほど高い天井と綺麗なタイル張りの床。

なるほどこれが日本の玄関か、と納得してしまうような雰囲気で、日本的な特徴を残しながらも特有の荘厳さを感じた。

もっとも海外旅行未経験の幸田には他国の空港と比べる事は出来ないのだが。

ふと腕時計を見てみると、三城が乗っているだろう飛行機の到着時間まで一時間以上あった。

「はぁ・・さすがに早く来すぎちゃったな。」

何をどう計算したのか、今となっては自分自身でも不確かなのだが、飛行機は着陸が遅れる事はあっても早まりはしないだろうに、こんなにも早く来すぎてしまったのだ。

「どうしようか・・」

いつまでもここに突っ立て居る訳にもいかず、かといってまだ絶対に到着しないと解っているというのに到着出口で待つのも馬鹿らしい。

幸田は国際線の到着口の場所だけを確認するとショップ街の方へ歩いて行った。

じっとしていると不自然にソワソワとしてしまうのではないかと思ったのだが、みやげ物のショップやブランドの洋装店を覗いても結局は同じだ。

目に入る物に何の興味も持てず、つい時計ばかりを気にしてしまう。

これではかえって不審者に思われかねないと喫茶店に入ってコーヒーを注文してはみたが、先ほどまでとなんら変わらない。

気を紛らわせる為先ほど本屋で購入した雑誌を広げてみても、文字が頭に入ってこず、すぐに閉じてしまう結果になった。

一時間という時間がこんなにも長かったとは知らなかった。

そしてコーヒーの味がこんなにも無味とも知らなかった。

熱いだけの飲み物を喉に流し込む。

再開時のシュミレーションをするほどの心の余裕も生まれてはこない。

ただちびちびとコーヒーカップを唇に運ぶばかりだ。

何度も見ていたはずの時計を凝視し、幸田の胸はドクリと他者に鼓動が聞こえるのではないかと思うほど強く大きく鳴った。

「後、10分・・・」

飛行機が定刻に到着したとしても、入国審査などで到着口たどり着くには更に時間がかかるだろう。

そうとは知りながら、幸田はコーヒーを飲み干すと落ち着きの無い様子で席を立ち上がった。

もうじっとなどしては居られない。

喫茶店を出て早足になりながら国際線へ向かう途中の窓から、晴れ渡った空が見えた。

三城はもうそこに居るのだろうか。

手を伸ばせば届きそうな空は、当然のように遥か遠かった。



 
*目次*