三城×幸田・それぞれの春・編・44



到着ロビーに掲げられた大きな電光掲示板が、三城が乗っているだろう飛行機の到着を知らせた。

いよいよだ。

幸田の緊張は否応にも強まり、今の気持ちを聞かれても言葉一つ出てこないだろうほど頭の中は真っ白で、煩いほど鼓動がドクドクと鳴り続けた。

落ち着きの無い様子で待合椅子に座ったり立ち上がったりを繰り返してしまうし、飛行機から降りてきた人たちが出てくるガラスの扉が開く度に慌ててそちらを見てしまった。

空港についてからの一時間も相当長く感じたがこの数十分はそれに比べられないほど長く感じる。

もう時計を見てはいなかったが、ポケットに入れた携帯が着信に震えはしないかと気になって仕方がなく、ひつこいほどチラチラとガラス扉に視線をやった。

未だどちらにも望んでいる変化は無い。

そわそわとじっとしていられず、数度目に席を立つと幸田はステンレス製の柱を見つけそこに歩み寄った。

髪は乱れていないか、身なりはきちんとしているか、自分の姿を映しネクタイを調える。

まともに判断は出来なかった。

ただ緊張に強張る自分の表情だけは理解出来て、こんな顔ではダメだと自らを叱咤した。

もっと笑顔で迎えないと。

ステンレス製の柱に映る自分に向けぎこちなく笑ってみせていると、その視線の先、実際には幸田の後方でガラス扉が開く所が見えた。

幸田は瞬時に振り返り、出てくる人波が見渡せる場所へと移動した。

様々な服装の人たちがバラバラと出てきては四方八方に散ってゆくので、到底その全ての顔を確認するなど出来ない。

スーツ姿の男性、というだけでも大勢いる。

それでも幸田は出来うる限り三城を探そうとしたのだが、それもすぐに杞憂に終わった。

人波が僅かに途切れ、見渡しが良くなった頃、──三城はその扉から現れた。

探すまででもない。

どんなに大勢の人が居ようとも、すぐさま見つける事が出来た。

平均的な日本人よりも高い身長やモデルと見紛うばかりのスタイル、誰もを惹きつけずにはいられないだろう容姿だからという訳ではない。

それが、三城だから、だ。

世界の誰よりも愛しく、会いたくて会いたくて堪らなかった。

その名を叫びながら駆け寄りたい衝動を、必死の理性で押さえながら幸田は三城に向かい歩きだした。

今までの危惧が馬鹿らしいほど、綻ぶ顔が止められない。

嬉しくて嬉しくて、頭で考えるよりも先に身体が反応してしまうのだ。

数歩と行かないうちに三城もまた幸田に気づいたようで、目を細め微笑むと愛用のトランクから手を離し片手を上げてみせた。

元々そう離れていなかった距離はすぐに縮まり、満面の笑みを浮かべた幸田が三城の前に立ち止まる。

「おかえりなさい。」

「ただいま。」

見返された三城の面持ちがこれでもかと優しいので、幸田の胸は熱く、堪えきれない想いは目じりに集まりいい大人の男が公衆の面前で泣いてしまいそうだった。

それどころか、勢いあまって三城の胸に飛び込みたい。

だがそうと出来る訳もなく、幸田は微笑んだまま堪えるように唇に力を込めたのだった。



 
*目次*