三城×幸田・それぞれの春・編・7



程好く酔った幸田は、深夜を回る前に店を出た。

きっちりと半分に別けて会計を済ませ、大通りへと向かう。

「じゃぁ、連絡待ってるからな!」

幸田以上に酔いの回っているらしい大石は、手を振りながら大きな声で告げるとタイミング良く捕まったタクシーに乗り込んだ。

足取りが不安定で心配だったが、タクシーで自宅前まで帰るのだから大丈夫だろう。

思い出話が肴とばかりに相当飲んでいた大石を思い出し、幸田はクスリと笑みが浮んだ。

あの分だと車内で眠ってしまいそうだ。

だが幸田も自分の出来上がり具合を思えば他人事とは言っていられず、まだ十分に電車のある時間だったが、タクシーを捕まえる為に片手を上げた。

時間も時間考える事は皆同じ、という訳か空車のタクシーがなかなか通らない。

手を上げ続ける幸田の目の前を流れていくテールランプは、酔った視界には幻想的にすら映った。

冬の夜風が酔いを僅かに冷ましてくれる気がする。

数年ぶりに会った大石は、大人になったという印象以外に変わってはおらず安心した。

昔と同じ、頼りになる先輩だ。

「・・・先輩、か。」

もし転職を決めれば、「大学の、」というだけではなく、教師としても職場の先輩になるのだ。

そんな当たり前の事が脳裏を過ぎっただけで、頬が緩む。

幸田は自分が思っている以上に、未来へ期待しているのだろう。

8割、いや9割は心を決めているのかもしれない。

ようやく幸田の前に一台のタクシーが止まり、それに乗り込む。

「麻生十番にお願いします。」

三城の不在時は別として、最近では自宅に帰る方が少なかった。

これが成人男性でなかったら少々問題だろう。

急に会いたくなった最愛の人を脳裏に描き、少々火照った顔を片手で押さえた。

三城は、幸田がこんなに酔って尋ねたらなんと思うだろうか。

不愉快に感じられたら困るが、きっと大丈夫だ。

根拠は無いが幸田は一人「うんうん」と頷く。

幸田と違い何事もそつなくこなしてゆく三城は、たとえ酔っていても全くそれを表に出す事はなかった。

アルコールに強く酔いにくい、というのも十分にあるのだろうが。

「酔った勢いの言葉や失態など、ただの言い訳だ。」

いつか聞いた三城の言葉を思い出す。

そりゃそうかもしれないが、酔わないと勢いがつかない人間もいるのだという事を、きっと三城には永遠に伝わらないのだろう。

その強さこそ、幸田の好きな所でもあるのだが。

思い出し笑いを浮かべると、不意に瞼が重くなりそのまま閉じてしまう。

車の振動が眠気を誘ったのだろう。

幸田は夢の世界へと旅立ってしまったのだった。



 
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