そして君が僕に・4


水遊びが出来るほど無邪気になれなかった俺は、少し離れた砂浜の上に座り、楽しげにするウミを眺めていた。

ウミは波打ち際で海水に触れたり、水分を含んだ砂を掴んだりしている。

いつもならウミと遊ぶ事など厭わないというのに。

今それが出来ないのは、胸の苦さからだろうか。

まだまだ高い太陽が、水面を煌かせた。

俺は睨みつけるように、その太陽を見る。

海が久しぶりならば、太陽を大きいと感じたのも久しぶりだ。

大人になったからだろうか。

殺伐と目の前の事だけに必死になって生きてきた気がする。

それを後悔なんてしていないけれど、それでよかったのだろうか、とも思う。

キリィを海に・・・いや、屋敷から出さなかった理由は、恐ろしかったからだ。

体調を崩して亡くなられるのが怖かった。

そしてそれ以上に、外の世界を知りそのまま何処かへ行ってしまうのでは、と怖かった。

俺は「看護」と言う名の権力を使い、キリィを閉じ込めたのだ。

偽善者面をして自分勝手なのは今と何も変わらない。

ボウっと昔を思い出していた俺は、ウミが沖へと歩いていこうとしているのに気が付くのが遅れた。

見つけるとすぐに立ち上がったが、何故か声が出ない。

「言葉」を発する方法を、ほんの一瞬見失ってしまっていたのだ。

焦燥に襲われる。

「ウミ!そっちに行ってはいけない」

ハッとなり大声で叫ぶと、ウミはすぐに立ち止まり振り返った。

満面の笑みが、太陽に負けないほど眩しい。

言うが早いか俺は走り出した。

ウミも、俺が焦っている事を察したのか浜辺へと戻ろうとしてくれた。

だが、その時。

一際大きな波が打ち寄せ、ウミの足首を掬った。

俺の声を聞き気を抜いていたのか、ウミはそのまま後ろへ転倒し・・・沖へと攫われた。

「っ、、、、!ウミ!」

喉が裂けるかという程の大声で俺は叫んだ。

頭の中が真っ白になる。

恐ろしくて恐ろしくてたまらなかった。

靴と服を脱いだ方が合理的である、などと考える余裕は到底生まれず、俺はスーツのまま無我夢中に海へと入って行った。

初夏の水温は冷たく肌を刺すようだ。

ウミはどんどん沖へと流され、俺は必死で追った。

身体に貼り付く衣類が煩わしいとも思わない。

俺は可能な限り腕を伸ばしてウミを求めた。

こんな時なのに・・いや、こんな時だからか、脳裏に過ぎるのは棺桶で眠るキリィの白い顔だった。

綺麗で、純潔で、あんなもの二度と見たくなどない。

頬に触れた水滴が、海水か汗か涙か解らなかったけれど、それは酷くしょっぱかった。


    
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