蒼穹を往く奏楽・22




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大勢で城へ乗り込んだところで、ガラ空きとなった船を狙われるだけだろうとガノンは言う。

いくら船長を取り戻しても船がなければ意味が無く、海賊の家でアジトで、その存在を示す船も守らなくてはならない。

その為イスハーク奪還には当初ガノン一人で向かうつもりだったらしいが、拓深がどうしても着いて行くと言うのでそうもいかなくなってしまった。

拓深の戦闘能力は不明だが、日常の行動を見ている限りあまりすばしっこくもなければバランス感覚も悪そうで、だからといって腕力がある訳でもない。

特殊な能力としてセイレーンの嵐をおこせるが、それは拓深の意思で発動出来るものではない。

自分の身くらい自分で守れる、と拓深が言ったのはあくまで『気がする』だけで、その言葉の信憑性の無さはガノンもそして隣で聞いていたジーノも同意するところだったようだ。

何故ジーノが船幹部でもないのにガノンの隣りで拓深への報告を聞いていたのかというと、自称・拓深の親友であるかららしい。

そしてその『自称・親友』は、当然の如く、イスハーク奪還に向かう拓深について行くと言い、ガノンも二つ返事で了承をしていた。

拓深は知らなかったが、イスハークにしてもガノンにしても、他の船員からもジーノは特別視されている。

イスハークの激高や時に撃墜を食らいながらも懲りずに繰り返し近づき、そして感情が表情に出ず船に来た当初は今よりもっと扱い辛かっただろう拓深と親睦を深めていった。

そのような事を出来たのは、唯一ジーノだけだ。

その為、イスハークが居ない今拓深に何かあれば必ずジーノが動くだろうとイスハークらが見越していたところがあるという。

命令だけで動く者よりも、忠義や友情の為にと自ら動ける者の方がより強大な力を持っているものだ。

「お前、戦った事あんのか?」

「ないよ」

「剣術習った事あるとか、ナイフ触ってた事あるとか」

「ないよ」

夜が更けるのを待つまでの間情報を集めるというガノンと別れ、拓深とジーノは場所を食堂の隅に移し、シェリー酒を煽っていた。

酒のつまみには、平船員のジーノだけならば出てこない上等のサラミやチーズが並ぶ。

いつもと変わらない、まるで日常。

瓶のままそれを煽り、ジーノは盛大なため息を吐き出した。

「お前、それでどうやって身を守るって?」

「・・・我慢して」

「あのなぁ、剣で刺されたり銃で撃たれても我慢すんのか?丸腰で行って、ただ我慢するだけで辿りつけるって?」

「無理、かな?」

「無理に決まってんだろ。あっちは軍隊持ってんだぞ?プロの軍人だぞ?」

「そっか・・・」

ただただ、イスハークに会いたいという一心であった拓深は、根拠もなくどうにかなるだろうと思っていた。

だがやはり現実はそう甘くはないようだ。

いざ同行し、ただ足手まといにしかならないのであれば意味はない。

否、足手まといとなる事は目に見えている。

だが、その自分のせいでイスハークを助けられないまでの事態に陥れば申し訳が立たないどころでは済まされない。

イスハークを思うならこそ、大人しくしていた方が賢明なのだろうか。

シェリー酒を手にしたまま、拓深はじっとテーブルを見つめた。

「やっぱり、無理、かな」

「ふざけんな。お前、一回決めた事だろ。男ならやり通せ」

「でも、無理って言ったのはジーノじゃないか」

「このままだったらな。だったら、今から特訓すりゃぁ良いだろ。軍人相手に渡り合えとは言わねぇけど、せいぜいガードするぐらいは出来るようにしろ」

シェリー酒のボトルを口に当て、ジーノは片手を振る。

無理だと言ったのに。

それだけで終わらせないのがジーノだ。

だからこそ、拓深もジーノには他の人とは違うものを感じるのだろう。

『自称・親友』だと言うジーノに、もう『自称』は必要なさそうだ。

「僕にも、出きるかな?」

「出来ると思ったら出来る。なんせ、この俺様が直々に教えてやろうってんだからな」

「そっか。ありがとう、ジーノ」

「・・・そう、素直に言われてもなぁ・・・」

ドンッ、とボトルをテーブルに置き、ジーノは視線を反らし頭を掻く。

その理由は拓深には解らなかった。

「ジーノ、教えて。やろう」

「おいおい、ここにある分くらい食ってからにしようぜ」

「でも、時間無くなる」

「まだたっぷりあるって・・・・しゃぁねぇなぁ」

早速だと立ち上がった拓深はジーノを急かす。

イスハークに会いに行く為に自分にも出来る事があると知り嬉しくて、じっとなどしていられない。

こんなにも心かき立てられたのは初めてだ。

今まで、諦めるしか知らなかった拓深が。

けれど今は───。

イスハークを諦めるなど、とても出来そうにはなかったのだった。