蒼穹を往く奏楽・37




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ずぶ濡れの衣類を脱ぎ捨てる。

互いに全裸になると船長室のチェストの中からタオルを取り出し大雑把に髪や肌を拭いたが、早々にイスハークと拓深は抱き合っていた。

「拓深、冷たいな。・・・寒くはないか?」

「僕は大丈夫。タリスがあるし、それに今は、イスハークが居るから」

イスハークの逞しい腕が、拓深の身体を包み込む。

どんなにこの瞬間を待ちわびていた事だろう。

彼と離れていたのはたった一日。

けれど、恐ろしく長い一日であった。

「拓深。早く拓深が欲しい」

「僕も・・・僕も、イスハークが・・・っん」

イスハークの唇が拓深の唇に重ねられ、荒々しく口づけを交わしあう。

貪るようなという表現が見合うそれは、息をする間がないまでに激しい。

「んっ・・・あっ・・・イスッ・・・ン」

あまりに強く唇を押し付けられるので立っているバランスを保つのも困難だ。

逃げている訳ではなくとも反動で胸を反らす拓深の背をイスハークが支える。

拓深にしてもイスハークを信じきり身を預けており、そうでなければ今頃転倒をしていただろう。

「あっはぁ・・・」

イスハークの舌が、拓深の舌を絡め取る。

熱いそれは触れ合うだけで背に痺れが走り、身体の中心をも熱くした。

無意識のうちにイスハークの背に腕が回り、密着を求めながら拓深は特にむき出しの下肢部を強く彼に押し付けていた。

口づけだけでは足りない。

もっと確実なものを、全身で感じたい。

硬く存在を示すペニスを察したのか、イスハークは拓深を抱いていない手でその尻を掴んだ。

「身体は、辛くないのか?」

唇を重ねあわせたままの囁きは、より一層淫靡な響きとなる。

いつの間にか閉ざされていた重い瞼を半分だけ持ち上げ、拓深は極近い距離のイスハークの面差しを見つめた。

「辛く・・・ない、よ・・・でも・・・つら・・・んっ」

「どっちなんだ。辛いなら、離してやる」

「離さないで。もう・・・触れて欲しくて、辛いんだ」

「っ・・・拓深」

不思議と先の戦闘での疲労は感じていない。

それよりも、キスだけで火照る身体がそれだけでは足りないと疼くのだ。

両腕で懸命にイスハークにしがみ付き、彼の唇を柔く吸う。

すると彼は、唇を離し拓深の肩を抱いた。

「お前を気遣ってやりたかったが、どうやら不要のようだ」

「え?・・・ぁ」

イスハークが数歩後ろのベッドへ拓深を押し倒す。

それに驚いた次の瞬間には、彼に覆いかぶさられていた。

「イスハーク・・・」

ベッドの上で彼を見上げれば、ただそれだけで欲情は高まってゆく。

裸体のイスハークの胸は鍛え上げられ逞しい。

首も腹も惚れ惚れする程男らしく、トライバル柄のタトゥーも勇ましいが、けれど今は左半身に広がるタトゥーよりも所々に確認出来る大小の傷に目が行ってしまう。

切り傷と擦り傷。

真新しいそれは赤く、何故か痛々しさよりもイスハークの肉体を飾る装飾のように感じられた。

「何を見ている」

「イスハークの身体・・・傷も、かっこいいね」

「何を言うかと思えば。この程度、いつもの事だ」

イスハークの手が、拓深の頬に触れ、そして唇に触れる。

そのまま指を口の中へ入れられるのかと思えば、ふいにそれは別の場所へと向かった。

「綺麗に出来ているじゃないか。本当なら俺が一番に見る筈だったのだがな」

「・・・ぁ、うん」

言葉とは裏腹の静かな口調のイスハークは、拓深の二の腕のタトゥー───彼の証に触れた。

これは、所有の証だ。

己がイスハークのものであるという証であり、イスハークにもまた、拓深の所有を示す証が刻まれている。

このタトゥーを刻み合ったという事も、今回どうしても絶対にイスハークを助けに行かなくてはならないと思えた要因だ。

拓深個人としては足手まといでしかなかった。

だが結果的に、セイレーンが力を貸してくれたおかげで今こうしていられる。

少しはイスハークの役に立てたと思って良いだろうか。

「イスハーク、あ・・・愛してる」

「拓深、お前は・・・。何故このようなタイミングで普段言わない事を言うんだ。優しくしてやれる自信が無くなった。拓深が悪いというのを覚えておけ。こんなにも、俺を煽るから・・・」

「僕はそんなつもりじゃ・・・」

「嫌か?」

「・・・嫌じゃ、ないよ」

嫌な筈などあるものか。

むしろ、此処まで来てお預けを食らわされている気分なのだ。

拓深の中心ではペニスがこれでもかと反り返っており、もう待てはしないと、拓深は腕を伸ばして彼の雄を握りしめた。

「優しくしないで良いから、早く・・・」

「拓深・・・」

もう一度、イスハークが唇を重ねる。

先ほどよりもゆったりとしたキスは、けれど濃厚に舌を絡みあわせる。

そうしながらイスハークは、拓深の奥の秘められた場所へ指を伸ばしたのだった。