蒼穹を往く歌声     11



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初めてSEXをした時の事などもはや思い出せもしない。

遠い昔、客の男が初めての相手で、その日から拓深の苦しい日常が始まった。

毎日繰り返される暴行。

辛いと叫ぶのも疲れてしまいただ流されるだけの日々。

拓深にとって性行為は殴られる事とセットで、懸命に耐えるだけの苦痛の時間であった。

だというのに。

「あっ・・・はっ・・ンっ・・」

いつもと同じくペニスで体内を突き上げられているというのに、イスハークのそれは拓深の知っている感覚とはまるで違った。

苦しいのは、無闇に内部をかき混ぜられる苦痛ではなく、せり上がる嬌声のせいで上手く呼吸が出来ないからだ。

冷たい床の上に放りだした腕は何も掴まる場所がなく、不安定に身体がガクガク揺さぶられる。

頭が振るわれるのは嫌で、拓深は咄嗟にイスハークの首に両腕を回した。

結局、SEXが辛いというのは、普段と変わらないのだ。

「どうした、拓深。もう戯言は口にしないのか?」

嘲るイスハークの言葉にも、拓深は返答一つ返せなかった。

お決まりにインプットされた睦言を言う余裕もない。

イスハークのペニスが体内を突き上げる度に、痛みではない強い感覚が襲い辛かった。

「んっ・・あっぁ・・・はぁっ・・」

「良さそうじゃないか。っ・・それにしても、よく俺を締め付ける」

首に腕を回す拓深に、イスハークは胸を合わせるよう身体の密着を深めると耳元で囁いた。

甘い吐息は耳軸を犯し、背筋にゾッと痺れが走る。

「・・・よ、い?」

「あぁ。気持ちいいのだろ?特にここが、好きなんじゃないのか?」

ここ、と示しながらイスハークが内壁の一部をこすり上げると、拓深は彼の首に巻きつけた腕に力を込めた。

「っあっ・・・はっ・・・な、に」

これが、快楽というものなのだろうか。

今まで知らなかった感覚。

強すぎる快感は苦痛と隣り合わせのようだ。

「拓深は可愛いな。馴れたそぶりをして、身体も出来上がっているというのに、こんなにも初々しい。下手な戯言を囁かれるよりも、ただ喘いでいる方が余程そそられるぞ」

もはやイスハークにしがみ付いていないと、身体がもたない気がする。

彼の腹で擦られるペニスにも痺れが走り、はやりこれが快感なのだろうと、あまりに大きすぎるそれに不安すら過ぎった。

こんなSEXは知らない。

上手く頭が働かなくて、何も言葉が出てこない。

そのうえ、イスハークの睦言こそが拓深には戯言のように聞こえ、彼の言葉の意味が解らなかった。

初々しいなど、男娼生活が長すぎる程長い自分に言うなんて、それはどういう意味なのだろうとぼんやりと脳裏を過ぎったが答えなど出せる暇もなく、引きずりだされたイスハークのペニスが体内に押し込められるのと同時に拓深もまたより一層深い快楽の波に押し流されていく。

「ぁっ・・・も、でる・・」

「あぁ、良い声で鳴いていけ」

イスハークの唇が、拓深の唇に触れた。

それは必死に呼吸を繰り返す拓深の唇を塞いでしまうようなものではなく、ほんの一瞬掠めただけ。

優しく小さく啄ばまれると、甘い口付けに気をとられ拓深はあっけなく絶頂へ達してしまった。

「はっ・・あ・・・ぁ・・・」

「くっ・・」

覆いかぶさるよう拓深を抱きしめたスハークも、同じく絶頂の高みへ達したのだろう。

小刻みに最奥を突く仕草でぼんやりと理解した。

頭が上手く回らなくて。

たった一回のSEXで射精が出来たし、こんなにもぐったりと体力を奪われてしまった。

いつもならば一日に何度もSEXを繰り返し、そのうち拓深が射精出来るのは数回程度だというのに。

やはりイスハークとの性行為は、拓深の知っているそれと同じようで全く違う。

与えるでも奪われるでもない、与えられるだけのSEX。

こんな何もわからない状態など、今まで一度も陥った事がない。

「思った以上だったな。これ程までの身体、他の奴にやるのは惜しい。拓深、お前はこれから俺専用だ。命が惜しくば、他の誰であっても身体を触れさせるな。わかったな」

床の上に腕を投げ出し、指先一つ動かすのも困難な拓深から身体を離したイスハークは立ち上がり拓深を見下ろすとそう言い放った。

元々死んでも良いと池に飛び込んだようなもので、辛い苦痛の日々に戻るならば死んだ方がマシだと考えている。

命など惜しくはない。

けれど、イスハークと身体を交えるのは嫌だという訳でもない。

見上げるイスハークの顔が、ランプの明かりだけの頼りない光の中で霞む。

また彼とSEXが出来るのだろうか。

うっすらと頷いたのを最後に、拓深は酷い疲れから意識を手放し眠りに落ちていったのだった。