蒼穹を往く歌声     16



−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

船長室に入りイスハークが施錠したと金属が落ちる音で理解する。

ずぶ濡れでただ立ち尽くしていると、イスハークは拓深にタオルを投げてよこした。

「早く拭け。風邪をひくぞ」

「あ、うん」

そういうイスハークも同じ場所に居たのだから当然のようにずぶ濡れで、拓深が受け取ったタオルを広げている前で水分を吸い重くなったシャツを脱ぎ捨てていた。

引き締まった見事な裸体が天窓から差し込む太陽の光の下に晒される。

何度となく、むしろ毎晩のように目にしている筈だというのに、水滴の光る姿はいつも以上に視線を惹きつけられ、淫靡に映るそれに魅入った。

自分や過去の客たちと比べてもイスハークのその身体は美しく、男の身体にこんな美しいものがあると初めて知った程だ。

与えられたタオルを頭から被り、拭きもせずにイスハークを見ていると、その視線に気づいたらしいイスハークが拓深を見やりニヤリと口角を吊り上げた。

「何を見ている?男の裸を凝視するなど、拓深はいやらしいな」

からかい口調のイスハークに、けれど拓深はどう返して良いのかわからない。

性的な意味で見ているのかと問われれば否であるが、では何故眺めてしまっていたかは答えられない。

濡れた髪をタオルでガサガサと拭き前髪をかき上げたイスハークは、拓深の返答など待たず、頭から被ったままのタオルを奪い取ると拓深の髪を乱暴な手つきで拭いた。

「早く拭けと言っているだろ」

「ごめん。拭く」

「もういい。俺がやってやる」

「でも・・・」

「俺がやってやると言っているんだ」

黙っていろとばかりに諌められ、拓深は口を噤んだ。

威圧的な態度は拓深の馴染み深いものであっても、イスハークのそれは拓深の知らない部類のもののように思える。

ただ言葉通り従うしか出来ず、イスハークにされるがまま髪を拭かれた。

そしてそれだけでは終わらず、衣類を上下共奪われ全裸の身体をタオルで包まれる。

この船に来て以来暴力と無縁になった拓深の身体は全身に纏っていた痣や傷が随分と減っていたが、けれど船医の話によると一生消えないだろう物も多くあるらしく、それを伝えた際イスハークは何故か顔を曇らせていた。

「拓深、寒くないか?」

「大丈夫」

「そうか」

「イスハークは?イスハークは、寒くない?」

全裸のタオルを巻いた拓深に対し、イスハークはまだボトムス着用したままだ。

革のそれが水分を含んでいるのかは知れないが冷たくなっているのではないか。

何故脱がないのか不思議に感じていると、イスハークは拓深をベッドへ突き飛ばした。

「・・ぁ」

「寒いと言ったら、どうしてくれるのだ?」

「え・・・」

柔らかいベッドに身体が沈む。

拓深の上へイスハークが覆いかぶさったかと思うと、彼の腕が拓深の背中に回され身体を密着させられた。

下半身が触れ合えば、やはりイスハークのボトムスは冷たい。

「拓深は、暖かいな」

「・・・イスハーク、冷たい。ズボン、脱いで」

「何だ?誘っているのか?拓深に誘われるとは珍しいな」

あっさりと拓深を離したイスハークは、機嫌良さげに言うとボトムスとそして下着も脱ぎ捨てた。

誘ったつもりなど毛頭ない。

ただ、冷たいズボンに触れるのは嫌だと思っただけだ、などと今更口にさせて貰えそうにもなく、足を含めた下半身もまた見事な筋肉を纏った全裸を晒し、イスハークは再び拓深へ覆いかぶさった。

「先ほどの話を聞こうと我慢をしてやっていたというのに、拓深があまりに見るから、その上あんな言葉で誘うから悪いのだぞ」

互いに全裸で抱き合えば、とても暖かかった。

それがとても心地よくて、拓深はイスハークの背中に腕を回し瞼を閉ざした。

「ごめん」

「何故謝る。ここは『優しくしてね』とでも言うところだろ」

「『やさしくしてね』」

「相変わらず心が篭っていない。まぁいい優しくしてやるから覚悟しておけ」

言えと言ったから言ったのに、と思う間もなくイスハークは拓深の唇を唇で塞いだ。

そんな事を、優しくしてなどとわざわざ言わずとも、イスハークはいつでも優しくしてくれると拓深はよく知っている。

熱い口付けはすぐに深いものへと変わってゆき、全身を火照らせるには十分であった。

舌を絡ませあいながら、イスハークの指が拓深の中心を弄る。

既に膨らみをみせていたペニスを彼の手のひらに納められ、その存在を確認をするようにキュッと力を込められた。

「フッ・・」

イスハークの要望から、拓深の下腹部は出会った頃のままだ。

陰毛はそり落とされピアスも嵌められている。

元々それに羞恥を感じていた訳でもない拓深は、彼が望むならとそれを快諾していた。

何も生えていない場所を撫でられ、ピアスを一つづつ軽く引かれる。

痛みはなく皮を引っ張られる感覚だけを亀頭に感じると、そこがヒクリと震えた。

「んっ・・・・」

「やはり、何度見ても可愛いな、拓深は」

キスを施しながら亀頭を弄んでいたイスハークは、唇が触れ合うかどうかという距離でそう囁くと、小さなキスを残し手のひらに収めたものはそのまま身体を下へとずらしてゆく。

首筋を舐められ、鎖骨にキスをされ、そしてピアスの光る乳首まで来るとそのリングを噛んだ。

「誘われた礼だ、今日は存分に可愛がってやる」

「・・・え」

どういう意味だと野暮な事を問う暇はなかった。

拓深の腹を舐めながら尚も下へと下がっていたイスハークは、ヘソまで辿り付き、それでも止まらず下へ向かうと本来陰毛の生えている無毛のそこにキスを与えた。

そこまで来られれば、次にどこへ口付けられるのか考えなくても解るというもの。

それに気がついた拓深は、咄嗟に上半身を起こすと驚いた表情でまじまじとイスハークを見やったのだった。