蒼穹を往く歌声     20



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ジーノはイスハークが拓深に惚れていると言っていたが、そう言われても尚ピンと来ない。

それというのも、「惚れている」という感情そのものに心辺りが無い為、気づく以前に理解するのも容易ではないのではないかと拓深は感じ始めていた。

拓深が身近にあったのは怒気と畏怖、それから自尊心を満たさせる為の支配欲だけ。

恋愛感情や愛・慈しみ、それらと同じ系統である「惚れている」というのも言葉だけならばともかく感情としては夢幻のようなものである。

考えたところで答えなど出そうにない疑問を忘れ去る事は出来ないまま、拓深はその晩もまたイスハークとベッドの中に居た。

さすがにやり倒された昨日の今日とあり、今晩のイスハークは幾ばくか手加減をしてくれているようである。

「どうした、拓深。辛いか?」

「ううん。大丈夫・・・」

イスハークの腕の中で柔柔とペニスを扱かれ、緩やかで甘い刺激を受けていた。

叫ぶような嬌声ではなく、つい唇から漏れてしまうような喘ぎが絶え間なく溢れる。

唇を結ぶ事も出来ず、ピアスの光る亀頭弄ばれればそこから粘着質な透明な蜜も姿を見せ、絶頂には程遠いながらも確かな快感を感じていた拓深は、隣りで横たわるイスハークに身を寄せながらそのペニスへと手を伸ばした。

「拓深。拓深はしなくて良いと言っているだろ」

だが拓深の指先がイスハークのペニスに触れた途端、彼はそれを諌めるよう声を尖らせそしてわざとらしく拓深のペニスをきつく握った。

イスハークが拓深にペニスを握らせないのはいつもの事だ。

握らせてくれないだけではなく、舐めさせてもくれなければ、挿入時に腰を振ってみせるのもイスハークは嫌がる。

その理由は定かではないが、今日もやはりダメかと手を引きかけた時、拓深は昼間のジーノの戯言を思い出した。

「イスハーク」

「なんだ?」

「えっと・・・。イスハークの、おおきいの、触りたい」

イスハークの胸元に居た為、拓深は横たわりながらも見上げる格好で口にした。

再び指先にイスハークのペニスが触れる。

けれど今度はそのまま、己のモノよりも遥かに握り応えのあるそれを手中に収める事が出来た。

「ぁ・・・」

初めてそれを見た時はその質量と形に驚愕すら覚えたイスハークの一物。

けれどその後解ったのは、彼だけではなくこの世界の標準として拓深が元居た世界よりも男の持ち物は皆一様に大きく形も括れが強調せれており、イスハークのペニスは並より少し秀でている程度のようだ。

「・・・」

少し待ってみても、イスハークは止めに掛からなかった。

視線の先に見つめる彼はいつもと変わらぬ、どこか不機嫌にも思える面持ちであったが、けれど今彼が怒っている訳ではないとはなんとなく解る。

拓深は、頭上のイスハークを見つめながらゆっくりとペニスを扱き始めた。

何も考えずとも動いてしまう指先は、彼の猛るペニスの良い所を探りながら上下する。

「・・・ック」

「イスハーク」

ようやく触れる事の出来たペニス。

握り締めた手のひらに硬い肉質と熱を感じ、胸がドクンと一つ鳴った。

何故かそれが感慨深く、するとあらゆる欲が少ない拓深に、珍しく欲が出てしまったのだ。

拓深はじっとイスハークを見上げ、ペニスを扱きながら続けた。

「イスハーク、舐めたい。あの、イスハークの・・・おっきいの」

手にした熱に刺激を与える。

何かしなければと思っていて、与えられるばかりのSEXを申し訳なく感じるあまりいつもその気持ちばかりが先走っていた。

それがジーノのいうところの「色気の無さ」だったのだろうと今なら思える。

上目に伺う拓深に、イスハークは視線を逸らしながらも薄く頷いた。

「・・・あぁ」

「良いの?ありがと」

イスハークが良しとしたのは初めてだ。

拓深はペニスを握ったままイスハークの腕の中からすり抜け、彼の引き締まった腹の下茂みの中から立ち上がるペニスの前まで身体をずらした。

「ん・・・」

性の濃い香りを鼻腔に感じ、拓深はまじまじとそれを見やる。

改めて目の前で見ても、見慣れぬ形と大きさだ。

「あまり見るな」

「ごめん」

掠れたイスハークの声音を耳にし、拓深は早口で言うと視界から彼のペニスを消すべく、大きく口を開けそれを咥え込んだ。

「っん・・・」

咥えるだけで口内が満たされる。

舌先すら自由に動かせず、拓深はそれを強く吸い上げると一旦口から離した。

根元は扱きながら、亀頭を括れから先端に向け舐め上げる。

「・・ック」

イスハークの弱い場所を探しながら、いつも客にしていたのと同じように口淫を施してゆく。

違う事といえば、イスハークはどんな時でも乱暴をしてこないので、今も拓深の喉を突き上げたり頭を押さえ込んだりとされないだろう、という安心感だ。

それ以外は何も変わらない。

そう、感じていたというのに。

「ッ・・・拓深・・ッ」

頭上でイスハークが息を呑むくぐもった声が聞こえた。

それがあまりに淫靡で。

耳を犯されるような息遣いに、拓深は己のペニスにも痺れを感じた。

ただ口淫をしているだけだというのに、何故こちらまでも身体が熱くなるのか解らない。

けれど、ペニスに感じた痺れの正体が興奮から来るものだとも気づかないまま、いつしか拓深は夢中になりイスハークのペニスを舐めていた。

お礼をしたかった筈なのに、いつも優しくSEXをしてくれ与えられるばかりのイスハークにお返しをしたかった筈なのに。

もはやそんな考えは頭にはなく、ただイスハークのそこに口付けをしていたいのだと感じていた。

「んっ、ふっ・・」

「・・・拓深。そんな、いやらしい顔をするな・・・ッ」

「ッ・・ごめ・・・ンンッ」

脈打つ彼のペニス、乱れる息遣い。

不味い筈のカウパー液を舌先に感じても決して嫌ではなく、それよりも己の施しで彼が快感を得てくれているのかと思えば嬉しかった。

「ぁっ・・ごめん。イスハークの、大きくて、上手く出来ない」

懸命に舌や唇を動かしていた拓深は、けれどどうにも勝手が違うと、そこに唇を寄せたまま独り言のように呟いた。

咥えるか舐めるかどちらかしか出来ないし、根元まで咥え込むなど到底出来ず、喉の奥で咥えようとしても大きさからあまりに苦しくて叶わない。

こんな事ではイスハークは満足などしてくれないのではないか。

己から望んだ事を真っ当出来ないなんて彼は怒っているかも知れない。

恐々となりながらイスハークを見上げると、彼は熱っぽい眼差しで拓深を見つめ返しそっとその髪を梳き上げた。

「拓深、もういい。お願いだ、止めてくれ」

「・・・良く、なかった?」

「そうじゃない。むしろ逆だ。あまりに拓深が可愛くて、そのうえ良い場所ばかりをついてくるから今にもいきそうなんだ」

怒るどころか、イスハークは濃艶にすら思える様子であった。

きちんと感じてくれていたのか。

ズンと腰に来る彼の眼差しに、拓深は亀頭の割れ目へと舌を伸ばした。

「いってよ」

「お前の口を汚したくはない」

「そんな事・・」

イスハークはしてくれたのに。

昨日、彼は嫌な顔一つせず拓深の放ったものを嚥下してくれたのに。

自分だって、と思い拓深は彼を深く口に含もうとしたが、頭を撫でていたイスハークの指先が頬へ下り顎まで来ると、そっと顎を押し返された。

「それよりも入れさせてくれ。早く拓深を抱きたいんだ」

拒もうかとも一瞬考えたが、頭で答えを出すよりも早く拓深はイスハークにされるがままペニスから唇を離していた。

「・・・。うん」

「今日の拓深は特に可愛い。しおらしくて、何かあったのか?」

甘く囁きながら、イスハークは引き上げた拓深を抱きしめた。

熱の篭った吐息を耳元に吹きかけられる。

やけに瞼が重く唇が閉まらなくなり、拓深は無意識のうちにイスハークの背中を抱き返していた。

「何も」

なかったよと拓深は首を振ったけれど、そう答えながらも脳裏を過ぎったのはジーノの言葉だ。

イスハークと身体を重ねる事を仕事とは思わないでおく。

ならば何と思えば良いのか、その答えは出せなかったけれど、ただ確かなのは、逃げようと思えば逃げられる状況で彼を受け入れているのは紛れも無い己の意思なのだという事だ。

拓深に「何かあった」とすれば、それに気づけた事だろう。