蒼穹を往く歌声     33



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イスハークに与えてもらった上等なブラウスのボタンが弾き飛ぶ。

肌着は破られ、その下の素肌は露わになり、同時にズボンと下着を膝の下までずり降ろされる。

「っ・・・」

息を呑む拓深に構う事なく、ジッドは片手でその肩を押さえつけるとざらついた手で拓深の胸や腹を撫でた。

触れられた場所がゾクリと震えるのは悪寒でしかない。

気色悪くて、今からこの男の性器に触れるのかと、入れられるのかと思えば青ざめるのを通り越し蒼白になりそうだ。

「なんだこれは?奇妙な飾りだな」

拓深の胸とペニスに施されたシルバーカラーのピアス。

イスハークがいつも綺麗だと言ってくれるそれに触れたジッドは、ニタニタと笑いながら胸のリングを引っ張った。

「っふっ・・・」

「どうした?お前みたいな売夫はこうされるのが良いんじゃねぇのか?ん?」

「やめ・・・」

容赦なく、力任せにそうされても感じるのは痛みだけ。

快感の欠片もなく、拓深の心を硬く閉ざしてゆく要因にしか成り得ず、SEXをしているのではなく犯されているのだと改めて突きつけられた。

イスハークは絶対にこんな事をしない。

ピアスを弄ばれるのは日常茶飯だが、いつも手つきは優しくて、拓深を気遣ってくれる。

ただただ綺麗だと、可愛いのだと言いながら、そこを指や舌で愛撫するだけだ。

「なんだと?こっちはそうは言っていないぞ?本当は良いんだろ?」

「いや・・・」

それでも、仕込まれ続けていた拓深の身体は、痛みと快感の区別を出来ずに敏感な部分に触れられれば反応を返してしまう。

たとえ辛くても、心が拒絶していても、ゆるゆると立ち上がってしまうペニスは止められなかった。

情けなくて、イスハークに申し訳なくて、また目頭が熱くなったが涙は溢れない。

唇を噛み、漏れ出る声を閉じこめる。

犯すなら犯せば良い。

どんなに嫌だと心の中で叫んでも、逃れられない事実が変わらないのならば、せめて早く終わって欲しい。

瞼を閉ざし、視覚を拒絶する。

耳を両手で閉ざし、ジッドの存在を出来るだけ感じないようにした。

それでも、触れる手がイスハークの物ではないと、手つきもまるで違うと思わずに居られなかったが、ただ耐えるしかない。

「っ・・ん・・・くっ・・・」

こんな事ならば、もっとイスハークの言葉を信じておくのだった。

今なら、イスハークにどんなに大切にしてもらっていたか、彼に愛されていたのかが、はっきりと解る。

「強情だな。好みだ。嫌がられれば嫌がられるほど、支配欲は刺激されるんだぜ?」

耳を塞いでも聞こえるジッドの下卑た声が、拓深を絶望へ誘う。

ジッドの手が拓深のペニスへ延ばされそして握りこまれると、嫌悪感は急激に増加する。

嫌で嫌で。

今まで感じた事がない程に、そこを触れられたくはないと感じた。

ジッドのザラついた指で扱かれ、己の意思に反して起立を増してしまうペニスに拓深は悪態が浮かぶ。

「こっちは、このままブチ込んでも構わないだろ。イスハークの野郎のちんこを毎日しゃぶりついってんだろ?ガバガバか?」

「っ・・・・くっ」

下品に笑いながらジッドの手が一旦離れたかと思うと、変わりに衣擦れの音が聞こえた。

シュッと紐が緩められる音と、ザッと布が擦れ合う音。

ジッドが何をしているのか解らない拓深ではなく、いよいよだと身体が強ばる。

いくら毎日性行をしていたとしても、元々そのような為に出来ていない場所を使うのだから毎度馴らさなくては辛い。

元の世界に居た時は馴らしの作業が無くともなんとか耐えられていたが、こちらの世界の男性器は以前の世界のそれよりも平均して大きいのだ。

あんな物をいきなり差し込まれたら。

恐怖だと、身が竦んだ───その時。

「・・・・・・」

手の平で耳を塞いでいた拓深に、聴覚ではなく、頭に直接響くよう声が───歌が聞こえた。

綺麗な、切なげにも聞こえる女性の歌声。

それは、聞き覚えのある、あの嵐の日に聞いたセイレーンの歌声だ。

また聞く事が出来るなんて。

しかも今は、船は揺れておらず雨音も聞こえず、到底嵐が訪れている風になど思えないというのに。

これは何を示しているのか解らなかったが、だが考えようとも思えなくて、拓深は導かれるがままに唇を開いた。

「───、───ッ」

「あ?なんだ?いきなりなんだっていうんだ?おい」

いきなり歌いだした拓深に、ジッドが困惑していると解る。

そっと瞼を開いた先では、みっともなくペニスを立てたままのジッドがおろおろと拓深を見下ろしていたのだった。