三城×幸田・お礼用SS
(甘い日曜日)



やはり昇格や役職の兼任に合わせ、三城は以前の比ではない程忙しくなっていた。

土日の休みも真っ当に取れず、寂しいという気持ちよりもただ彼の体調が心配でならない。

元より鍛えているし体調管理に抜かりは無いと三城は言うが、それにしてもこうまで働き詰めともなれば話は別ではないだろうか。

身体的なもの以外にも精神的な、つまりストレスだって相当だと思う。

自分では想像も出来ない重圧や期待や、いろんなモノを三城は背負っている筈だ。

それでも彼は、滅多な事では愚痴の一つも零しはしないし泣き言や疲れたの一言でもそうだ。

だからせめて、家でくらいはゆっくりと寛いで、リラックスをして欲しい。

引きこもり生活を約束させられた土日の日曜日。

幸田は精一杯の腕を奮い、忙しく働く三城に夕食を準備したのである。

「ただいま」

普段の彼の帰宅時間よりも随分と早く、三城は軽やかな足取りでリビングへと入ってきた。

いつもこれくらいの時間ならば連日休みなくてもまだ安心が出来るのに、と思えど幸田は笑顔で彼を迎えたまま口にはしない。

言ったところで彼は良くも悪くも何も思わず聞き流すだけだろうと経験から想像がつくというものだ。

「春海さん、おかえり。早かったね」

「さすがに日曜日まで深夜業務はしたくなくてな。それに、今日は恭一が家に居ると解っていたから、早く帰りたくて仕方が無かった」

「そんな。あ、晩御飯、食べるよね?」

さらりと言ってのける甘い言葉に、言われた方が恥ずかしくなってしまう。

三城と居ればいつもそうだ。

キザという訳ではないだろうが、彼は極普通の調子で誉めたり愛の言葉を告げてくる。

それが誰にでもであるのか、己だけ限られたものであるのか幸田には解らない。

「あぁ。そのつもりで何も食べていない。良い香りがするが、今日は何だ?」

「良かった。今日は煮込みハンバーグ。普段はあんまり時間取れなくてこういうのは作れないから、と思って」

「そうか。楽しみだ。先に着替えてくる」

「うん。用意しておくね」

自室へ向かう三城を見送り、幸田はキッチンへ足を向けた。

広々としたシステムキッチンは正に幸田のテリトリーだ。

ほぼ幸田しか使わない為自分だけが使いやすいように整えたそこで、馴れた手つきで料理の仕上げに取り掛かった。

とはいえ、鍋の中でハンバーグは出来上がっており、後は温め直し盛り付けるだけである。

「お皿、お皿・・・と」

以前は洋食よりも和食をよく作っていた気がする。

それというのも、和食は味噌や醤油や素麺汁などで味をつけてしまえば簡単である、という先入観があったからだ。

けれど三城が洋食を好むと知ってからはどちらも織り交ぜるようになり、今日のように自分に時間が有り彼が忙しい時などは労いも込めて幸田にしては手の込んだ物を作るようになっていた。

「春海さん飲むかな・・・ワインとか合いそうな気もするけど・・・」

幸田はあまりアルコールに強い方ではなかった。

だからと言って特別弱い訳でもなく、飲み会などには問題なく参加出来る程度だ。

けれど三城と暮らし彼の晩酌のお供をするようになってからは、これでも少しは強くなったように思える。

「僕はどうしようかな・・」

今日は日曜で明日は仕事があるが、多少なら一緒に飲んでも良いかもしれない。

料理が盛り付けられた皿をダイニングに並べ、そんな事を考えているうちに着替えを済ませた三城が幸田の元へやって来た。

ラフな上下に着替え髪を下ろした彼は、スーツで決めている時よりも幾分若くそして柔らかく映る。

「旨そうだな。恭一、どうした?」

「あ、春海さん。今日は飲む?」

「あぁ、そうだな。ワインが合いそうだし、せっかくだから飲むか。恭一はどうする?」

「んー僕もちょっとだけ頂こうかな」

「そうか。なら、恭一が飲みやすい柔らかめの物にしよう」

「ありがとう、春海さん」

彼がワインの好みを合わせてくれるのは稀で、余程機嫌が良かったのだろう。

三城は幸田の髪をさっと撫でると、ワインを取りにキッチンを後にした。

それに合わせグラスを用意するのは幸田の役目である。

「・・・これで良いかな」

ペアのワイングラスを棚から下ろすと無意識に頬が綻ぶ。

彼と過ごす何気ない休日の夜。

精一杯作った料理に彼の選んだワイン。

杞憂の中でもそんな事をすっかり忘れ去ってしまう程、今は何より幸せな時間だと感じる幸田なのであった。



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