ヤクザものシリーズ・お礼用SS
(本場のたこ焼き)


大阪へ向かう高速道路である。

普段、中里を中心とした移動の場合出来る限り休憩を取らずに先を急ぐのだが、今回に限ってはそうではなかった。

湯沢にキツく言われて居たらしく、実に気をつかった中里が頻繁に車を止めてくれていたのだ。

それは大変有りがたい事で、実は足を休めると共にドライブインを楽しげに見て周っている。

旅行が生まれて初めてならば、こういった場所も当然ながら初めてで、目に入る物が手当たり次第に珍しくて仕方がないようだ。

土産物や通路に面した持ち帰り専用のフードショップ、食券機なども不思議に映るらしい。

「ゆた、人いっぱいね」

「そうだな。平日でも多いもんだ」

特に目立つのは年配のグループ客で、時間と金に余裕のある世代が日帰り旅行でも楽しんでいるのだろう。

土産物を多量に抱える老人達を嫌な物を見るような目つきで眺めた遠藤は、何気なく実の肩を抱き寄せた。

「ゆた?」

「人込みは危ないからな。用が無かったら戻るぞ」

「はぁい」

人込みと現す程込み合っている訳でも無かったが年寄りというのは往々にして図々しい生き物で、先に寄った店では一見ただの若者に見える実を邪魔だと突き飛ばされたのだ。

だが実の所実はただの──丈夫な若者ではない為、突き飛ばされれば簡単に転倒する。

遠藤や千原の強面が側にいてもそうとされるので、その図太さは並ではないだろう。

とはいえ、いくら実が転ばされたからと言って、大切な大阪行きの途中でカタギの人間と揉め事を起こす訳にもいかない。

ならば、実の安全上、そして遠藤の精神衛生上、元より関わらないというのが一番である。

「行くぞ」

「うん・・・あ、ゆた。ゆた」

「何だ?」

「みの、あれたべたい」

遠藤が実を抱き上げ車に戻りかけた途端、その歩みを止めるかのように実は声を張り上げた。

遠藤の肩越しに後方を指差すので振り返り確認をしてやると、そこには店舗と屋台の中間のような店があり昇りには「たこやき」の文字と蛸のイラストが踊っている。

確かに辺りにはソースの香りが充満しており食欲がそそられるが、何と言っても現在向かっているのは大阪だ。

そうでさえなければ一も二も無く買い与えていただろうが、遠藤は困惑に眉を寄せた。

「たこやき、な。大阪が本場だからなぁ・・向こうで買ってやるから今止めとけ。こんな場所のもんなんざ旨ぇか解ったもんじゃねぇ」

「・・・ほんば?」

「あぁ。有名だって事だ」

他に名物と思いつくのはお好み焼きかてっちりか。

遠藤としては後者の方が嬉しく、所謂「粉もん」はあまり食べたいとは思えないが実が望むなら別だ。

何店でも何回でも食わせてやろう、という意気込みではあったが、けれど実はまだ納得していないように首を傾げた。

「なんで?おおさか、たこさん、とれるの?」

「なんで?・・・なんで、だろうな。蛸が捕れるとは聞いた事がねぇが・・・」

「じゃぁ、こなさん、とれるの?」

「粉?あれ何粉だ?知らねぇし、聞いた事ねぇぞ」

「じゃぁ、なんで、ゆうめいなの?」

改めで言われると、答えに窮する。

考えた事もなければ特別知りたいとも思わないが、どうやら実はそうではないらしい。

「なんで、ここのより、おいしいの?」

「・・・さぁな」

特産物で作っている訳でもないし特別な加工がされている訳でもなく、此処で作るのと大阪で作るのと何が違うのだと、問われても遠藤には答えられなかった。

名物だと言われているから旨いのだという先入観は誰にでもあるもので、遠藤にしてもそうだったという事だ。

遠藤が考えても解らないのならば、結局は本当に差などないのかもしれない。

それなら別に構わないか、買ってやろうと踵を返しかけた時、遠藤の後方・実の視線の先から声が掛けられた。

「そりゃぁ、職人がいっぱい居るから有名なんですよ」

「しょくにん?」

「そうです。粉と蛸とソースの配分を絶妙にし、あの丸いのを綺麗に作れる人が大阪にはすっげぇ居るんです。ここの人はたかだがバイトなんで、マニュアル通りっすよ」

振り返らなくても解る声音は、長谷川だ。

事の真偽は定かで無いながら、さも真実だとばかりに言う奴の言葉に、あれ程ハテナマークの飛び交っていた実も納得を深めているようであった。

面白くない。

何がどうと言葉に出来るよりもはやく、遠藤のこめかみはヒクついたが、幸か不幸か、長谷川からは伺い知る事は出来ない。

「おおさかのが、おいしい?」

「ぜってぇ旨いっすよ。あの観光ガイドにも載ってたじゃないっすか。こんなとこで食わずに、旨い店で食いましょうよ」

「うん。のってた。じゃぁ、みのそれがいい」

「楽しみですね。俺、並んででも買ってきますから」

「じゅんくん、ありがと。たのしみ」

「・・・・おい、長谷川。てめぇさっさと車戻れ」

「すみませんっ」

目障りだ。

低く唸り奴を追い払い、遠藤の内心とは裏腹に気分が晴れた様子の実を見やった。

ヘラリと笑う実はもう何も欲していない様子で、八つ当たりの感情として実に笑顔を与えた長谷川に苛立ちを感じてならない。

とにかく長谷川が鬱陶しい。

けれど奴を実の前から排除するというのは現実的ではなく、ただ悪態ばかりが溜まっていく。

「ゆた、みのももどろ?」

「あのたこやきは要らねぇのか?」

「いらない。おおさかでたべる」

「あぁ、そうか。俺も実に買ってやるからな、たこやき」

「うん。ゆたのも楽しみ」

「・・・・」

実の要望に先に気がついたのは自分だというのに。

いくらでも買ってきてやろうと考えたのも先だというのに。

何故か実にとってついでの扱いをされているような気がしてならず、それが無性に癪に障って仕方が無い遠藤であった。




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