三城×幸田・お礼用SS
(セントポーリア)



『何』と特別あった訳ではない。

ただ、たまたま信号待ちで停車した車内から見えたそれが、やけに綺麗だと感じてしまった。

自分はまるで興味がないけれど恭一ならば喜ぶのではないか、そう思ったのと同時に車を路肩へ寄せていたのだ。




*********

残業も程ほどに切り上げ、三城はあまり遅くならない時間に帰宅をした。

普段と変わりなく隙の見えない装いに愛用のビジネスバック、そして片手にビニールの袋。

ビニールの袋と言ってもスーパーやコンビにの物とは違うし、テイクアウトの食品が入っている物とも違う。

これを渡した時の反応を楽しみにしながら、三城は鍵の掛かっていない玄関扉を開けた。

「ただいま」

「おかえりなさい。早かったね。夕飯すぐ食べる?」

玄関を開ける音に気が付いたのか、三城が靴を脱いでいる間に幸田はパタパタと小走りにやってきては出迎えてくれた。

いつもと変わらない、今朝別れたばかりの幸田の柔らかい表情。

ラフな服装に着替えている彼は言われなければ教師と思えない程、良く言えば険のない雰囲気だ。

夕食を進めるだけあり既に料理は出来上がっているのか、鼻腔を擽る香りに食欲がそそられた。

「あぁ、そうだな。着替えたら食べたい。恭一はもう済ませたのか?」

「ううん。今日は春海さん遅くなるって連絡なかったから、待ってようと思って」

「そうか。なら腹減っているだろう」

「大丈夫、僕もさっき帰ったとこだから。じゃぁ、温めて来る」

そっと三城の手に触れた幸田は瞳をひっそりと細め、けれどそれだけで踵を返そうとした。

キッチンにでも向かうつもりだったのだろうが、三城はすかさずその手首を握り返し引き止める。

ふいの事に驚いた表情を浮かべ振り返る幸田がなんとも可愛らしい。

「春海さん、なに?」

「恭一に渡したい物があるんだ」

幸田から手を離し、大切に持ち帰ったビニールの袋をその中身が見えるよう両手で渡す。

重いという程重い訳ではないが、決して軽くはなく知らなければズッと手首にきてしまう。

「・・・、春海さん、これ」

「セントポーリアというらしい」

三城からそれを───、可憐な花の付いた鉢植えを受け取った幸田はぼんやりと手の中の物を眺めていた。

突然の事に対応に困っているのかも知れない。

なにせ幸田は花が好きだと聞いた事がある訳でもないし、もちろん三城がそうだという訳でもない。

むしろ三城に至っては、花を初め景色や夜景や、そういった物を美しいと愛でる習慣がないのだ。

「育てやすく室内に置いていて良いらしい。育て方次第で年中花をつけるとも言っていたな」

「・・・春海さんから花なんて貰ったの、初めてだね」

「そうか?」

そう言いながらも、記憶力には人並み以上の自信のある三城はもちろん知っていた。

花など、プレゼントを考えるのが面倒な時に女に贈ってそれなりに喜ばれる無難な物だという感覚しか無く、その為プレゼント選びが全く苦ではない幸田には贈る機会など巡らなかった。

それを今日は何がどう気が向いたのか、ふと目に止まった花屋に足を運んでしまったのだ。

今までは、すぐに枯れて無くなり華美で豪華で見た目に良い花束かアレンジフラワーくらいしかプレゼントに選んだ事はない。

だというのに、その花屋には片手で持てる小さな鉢植えからどっしりとした植木もあったがメインは切花で、見本として展示されているアレンジメントはどれもモダンに鮮麗されていたけれど、だが三城はそれらではなくこれを選んでいた。

植え替え用の安易カップから、その店で一番見栄えの良い鉢に植え替えても貰った。

家の中のどこへでも置けるように、そう考えながら脳裏には世話をする幸田の姿を思い描いていたのである。

「面倒か?やはり切花の方が・・・」

「そんな事ない!面倒なんて全然思ってないし、切花の花束とかも綺麗だけどあれはすぐ枯れちゃうから。こっちの方がずっと育てられて嬉しいよ」

伺うような三城に、無意識にか一歩退き鉢を守るように抱いた幸田はとんでもないとかぶりを振った。

「春海さんから初めて貰った花、大切に育てるから。・・・花なんて育てた事ないからうまくいくか解らないけど。でも、あの、ありがとう。凄く、すっごく嬉しい」

薄っすらと頬を染めた幸田は、照れくさそうにしながらもパッと笑って見せた。

その表情があまりに愛しくて、きっとこの顔が見られるのだろうな、と想像しながら花屋に向かったのだと思い出した。

「そうか。なら良かった」

「綺麗だね。薄紫と白で」

「こういったストライプというのは珍しいそうだ」

「へぇ、やっぱり綺麗な物って稀少なんだね」

そう言って花を眺めながら笑う幸田を、三城は10cm上から見つめる。

綺麗なのも大切にしなければならないのも、この三城がそう感じている何よりも稀少な存在も、全てはそんな花よりも幸田自身だ。

いっそ耳元で囁いてみせようかとも思ったが、あまりに純な表情を浮かべる幸田に邪推な事は出来ない。

お楽しみは後で取っておくべきか。

夕食後しっかりと「お駄賃」を貰おうと決め、三城は口元を緩めたまま幸田を眺め続けたのだった。






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