三城×幸田・お礼用SS
(就任パーティー・前編)



ストーカー騒ぎも収まった週末。

一人きりの休日を過ごしていた幸田は、特に何をするでもなくぼんやりとテレビを眺めていた。

大して興味深い番組がある訳ではなかったが、掃除も洗濯も昨日済ませてしまったし、今晩は三城の帰りが遅い事もあり夕食は簡単にするつもりで、そうなれば他にする事がない。

以前は休みならば一日寝て過ごす日も頻繁にあったのになと考えれば、そういえば予備校時代は二日続けた休みではなかったと、なんとなく思い出した。

だがたまにはだらだら過ごすだけの日があっても良いか、と一人納得していると、不意に滅多に鳴らない固定電話の着信音が鳴り渡った。

携帯電話の使用が殆どの今、お飾りのようなその着信が誰からのものかも想像がつかない。

幸田はいぶかしみながらも素早く立ち上がると早足に電話機へ駆け寄った。

「はい、こっ・・三城です」

上ずった声でしかも姓を間違えそうになりながら、というのはいくら着信が切られない前にと焦っていたからとしても恥ずかしい。

何をやっても三城のようにスマートにはいかないものだな、と苦笑すら浮かびそうになった幸田の耳に届いた電話の相手は、その苦笑すらも飛んでしまう意外な人物からであった。

「もしもし、C&Gの北原です。幸田恭一さんでしょうか?」

「北原さん!?こんにちわ。あ、はい幸田です」

先ほど以上の素っ頓狂な声になり、何も無い場所に目礼をしてしまう。

北原とはあの北原でもちろん間違いはないだろう。

だが、以前何度か言葉を交わした際に感じた冷淡さはなく、しっとりと柔らか味のある声音で、声自体は同じでもまるで別人のように感じた。

「あの、春海さんは居ませんけど・・・?」

「もちろん存じています」

「そうですよね、パーティーですもんね」

即答で帰ってきた北原の返答に、そりゃそうだと乾いた笑いと共に自分の発言に突っ込んだ。

なにせ今日三城が不在なのは会社での用件に他ならず、しかもただの休日出勤ではなくパーティー、それも自身が主役だと言っても過言ではないそれに出席する為なのである。

クラインの支社長就任そして三城の副支社長就任の記念パーティー。

それを秘書的役割を果たしている北原が知らない筈もない。

ならば何の用件だ、三城の忘れ物か何かを届けて欲しいのだろうか、と憶測を立てていると、受話器の向こうの北原はそんな幸田の思惟とはまるでかけ離れた思いもしない事を口にした。

「今日はその件でお電話をさせて頂きました。突然で大変申し訳ないのですが、幸田さん、本日はお時間ございますでしょうか?」

「・・・今日ですか?特に予定はありませんが」

「良かった。でしたら、よろしければパーティーにいらっしゃいませんか?」

「へ?パーティーって、僕がですか?でも・・・」

「部長の晴れの日です。幸田さんがお越し下されば部長もさぞ喜ばれると思います」

急といえばこれほど急なものもなく、思いもしなかった誘いに幸田は動揺した。

無駄に辺りを見渡してみても、そこは見慣れた自宅のリビングでしかなく何の助けにもならない。

三城の会社関係のパーティーに参加するなど、考えもしなかった事だ。

「でも、僕なんて外部の人間が出席しても良いんでしょうか?」

「構いません。パーティーは各社から出席されますから、関係者か否かなど誰も気づかれませんよ」

北原の言葉に、妙に納得をした。

沢山来ている参加者の一人になるだけ。

本来会社とは無関係な幸田が居たところで誰も何も思わず、もちろん三城との関係を疑われる事もない。

三城の晴れ姿・会社での彼、見てみたいなと考えると、幸田は見えない北原に頷いていた。

「そう、ですよね。・・・それじゃぁ折角だし、参加、させて頂こうかな」

「ありがとうございます。パーティーの詳細についてですが───」

三城が主役のパーティー。

己が参加するなど微塵も想像していなかったが、いざそうなると楽しみで仕方がなくなった。

きっとスポットライトを浴びる彼は悠然と凛々しいのだろう。

北原に伝えられた詳細をメモしながら、幸田は緩む口元を抑えられなかったのだった。





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