三城×幸田・お礼用SS
(室町にお願い)



それは、最愛の恋人にストーカーが憑いていると発覚した翌日の土曜日である。

個室の執務室で一人パソコンに向かっていた三城は、ふと時計を見やるとおもむろに私用の携帯電話を取り出した。

「・・・今なら暇だろう」

アドレス帳に登録されている中からま行を呼び出し、ダイヤルを掛ける。

先日この部屋に移動し座り心地も数段良くなったプレジデントチェアに背を預けた三城は、不機嫌そうに眉間に皺を寄せた。

なんと言っても、その原因は昨日の幸田との口論だ。

幸田は普段から自分の容姿や価値に無頓着な所があり、そこを可愛いとも感じてはいるが、それにしても今回は度が過ぎる。

その上、秘密を持たれていたという事も十分に三城にショックを与えていたのだ。

数コールの末、通話が繋がるやいなや三城は不遜としか言いようのないふてぶてしい口を開いた。

「遅い」

『おい。もしもしくらい言えよ』

「必要ないな。お前に頼みたい事がある」

『・・それが人に物を頼む態度か?』

あまりにあまりな三城の態度にスピーカーの向こうで不満の声を上げたのは、大学時代からの友人であり警視である室町だ。

不定休であるとは以前聞いていたが、後ろから聞える音を察するにどうやら土曜である今日も出勤しているようだ。

胸元から煙草を取り出した三城は唇に咥え火をつけると、一息吐き出すだけの間を空けた。

「悪いな。気が焦ってるんだ」

『どうした、お前らしくない。それが頼みに関係あるのか?』

「あぁ。・・・、恭一にストーカーが憑いている。さっさと犯人を見つけて除外したい。手を貸してくれ、というのが頼みだ」

正直なところ、あれがストーカーである確立は8割程度だと推測する。

本当に幸田の言うようにただの悪戯かもしれないが、例えそうだとしてもあれが学生の仕業ではない事は明白だ。

きっと幸田はあの写真を封筒一つ分もまともに見てないのだろう。

そうでなければ、学生には不可能だと気づかない訳が無い。

『ストーカーだと?被害は?』

「ここ数日、毎日封筒にいっぱいの隠し撮り写真を送りつけられている」

『それだけか?』

「あぁ。問題は恭一がストーカーだと考えていない事だな」

『なんだと思ってるんだ?』

「ただの悪戯だ。だがそれにしては手が込みマメ過ぎる」

望遠具合や写真に入り込んだ物から、それが普通のデジカメではなく一眼レフカメラで、それも精密に隠れた場所から撮影していると知れる。

悪戯にここまで尽力尽くす奴が居るのか、というのも三城がこれをストーカーだと考えた一因だ。

『・・・。そうか、まぁ恭一さんがあれだけ綺麗だったら、ストーカーくらいつくわな』

「かもな。だがあれは俺の物だ。いつまでものうのうとストーキングさせるか」

『で、俺に頼みって?具体的には?』

「月曜は休みか?」

『・・・休みだ』

幸運である事も、人生を成功させる為の重要なポイントだと考えている。

室町のぶっきらぼうな返答に、三城はニヤリと口角を吊り上げた。

「そうか、それは良い。俺はどうしても月曜に抜けられない仕事があってな。夕方以降、興信所に相談に行くつもりだが、それまでの間恭一のガードをしてくれ」

『は?いや、直接危険があるならともかく、写真を摂られてるだけだろ。興信所でストーカーの身元を割るのはともかく、俺がガードについた所で・・・』

「月曜、恭一は自分が犯人だと思い込んでいる奴がそうでないと知るはずだ」

『だが犯人は・・・』

「何もないかもしれない。だが、何かあった時どうする?」

『それは・・・まぁ、後悔するだろうな。お前も俺も』

護衛を断り、その結果取り返しのつかない事になる。

その時、責任感と正義感の人一倍強い室町がどう思うか、考えるまでも無く解ると言うものだ。

「そういう事だ。礼ならするぞ。給料でも支払ってやろうか?」

『馬鹿いえ。誰がお前からそんな物受け取るか。・・・それにしてもつくづく甘いな、恭一さんだけには』

「だけ」と強調する室町に、冷笑が苦笑に変わる。

言われるまでも無く解っている事だが、指摘されると改めて気がつくものだ。

自分は恭一にだけは弱くて、何よりも大切なのだと胸に宿る。

「まぁな。惚れた弱み、だろ?」

『惚気か?いいねー、ラブラブで』

「今日も恭一の手料理が待ってるんだ。どうだ、羨ましいか?」

『一人もんには羨ましい限りだよ。今度俺にも食わせろ。恭一さんの手料理』

「恭一の料理は絶品だからな。お前なんかにもったいない」

『ンだと?月曜の件断るぞ・・・』

口ではなんと言いながらも、室町が約束を遂行してくれる事は解り切っている。

そして三城も、こう見えても彼に感謝をしているのだ。

こんな三城ともう何年も友人を続けていられる室町は、きっと今回もまた三城の本心が伝わっている事だろう。

「じゃぁな。頼りにしてる、よろしく頼む」

最後の一言だけ、感情を込めた三城は室町の返答も聞かずに一方的に通話を切ったのだった。





+目次+